症例紹介

Case

2024/2/28

循環器/呼吸器科

犬の肺高血圧症実際の肺高血圧症の症例を紹介

肺高血圧症は高齢の犬で時折みられ、命に関わる病気とされています。
特に肺高血圧症の症状は、失神や呼吸困難など重篤なものを引き起こすことが多く、発症時に飼い主様が驚かれることが多いです。
今回は肺高血圧症の犬を飼われている飼い主様に、実際の症例を交えながら病気の解説をしていきます。

肺高血圧症とは何か

肺高血圧症を一言で表すと「心臓から肺に血液を送る血管の血圧が上がり、肺に血液を送りづらくなる病気」です。

このことを詳しく解説する前にまずは下の画像を見ていただきましょう。

 

この画像は心臓の内部の構造を表しています。
画像のように、心臓は左の部屋と右の部屋で分かれていて、それぞれ左心系、右心系と呼ばれています。
心臓は血液を送り出すポンプの役割を果たしていて、基本的に血液を一方向に送り出しています。
血液が流れる順番は「肺→左心房→左心室→全身→右心房→右心室→肺」という順番になります。

 

肺高血圧症はこの中でも「右心室→肺」の血液の流れが悪くなってしまう病気なのですね。
肺に血液を送り出すのが困難になると、血液が酸素を取り込むのも困難になりますので、低酸素状態によって失神を起こすことがあります。
また、肺に血液が送り出しづらくなると右心房や右心室などの右心系に血液がうっ滞し、全身の血管から水が漏れ出し、浮腫んだり、胸やお腹に水(胸水、腹水)が溜まるようになり、呼吸困難や食欲不振を引き起こします。
こういった症状が改善されない場合には命を落としてしまうこともあります。
肺高血圧症は一般的には難病で治療は困難と言われています。

肺高血圧症の原因

肺高血圧症は一言で表すと「心臓から肺に血液を送る血管の血圧が上がり、肺に血液を送りづらくなる病気」ですが、この状態になるにはそれぞれ原因が存在しています。
犬の肺高血圧症では不明な点も多く、現在では人の肺高血圧症の分類に基づいて分類されることが多いです。
以下がその分類です。

 

  • 第1群 肺動脈性肺高血圧症
  • 第2群 左心疾患に伴う肺高血圧症
  • 第3群 肺疾患・低酸素に伴う肺高血圧症
  • 第4群 慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症
  • 第5群 詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症

 

第1群は肺動脈が様々な原因で狭くなってしまい、肺に血液を送り出しづらくなってしまっている状態です。
犬の肺動脈性肺高血圧症は、動脈管開存症や心室中隔欠損症などの先天性心疾患によって一時的に肺動脈に流れる血液量が増えることで徐々に肺動脈が分厚くなり狭くなる、という病態が比較的多いとされています。

第2群は犬の肺高血圧症の中では最も多い原因で、左心系疾患により肺に血液がうっ滞し、そのうっ滞が右心系まで伝播し、肺に血液を送り出しづらくなってしまっている状態です。
犬の第2群の肺高血圧症は僧帽弁閉鎖不全症という病気による肺高血圧症が最も多いです。

第3群は低酸素になることによって肺の血管が障害を受け肺へ血液が流れにくくなる状態です。
犬では特にウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア(ウェスティー)に好発する特発性肺線維症に伴う報告が多いです。

第4群は肺の血管に血栓が詰まることによって肺へ血液が流れづらくなってしまっている状態です。
血栓だけではなく肺の血管に寄生する犬糸状虫(フィラリア)も血栓と同じ役割をするため、第4群に分類されます。

第5群は原因が明確ではないけど肺高血圧症になっている症例ですね。

肺高血圧症の治療

肺高血圧症の治療は大きく2つに分かれています。

「原因に対する治療」と「今起きている症状に対する治療」ですね。

「原因に対する治療」は一つ前の章でお話ししたような原因に対して治療していきます。
例えば、第2群であれば左心疾患の治療を強化する、第3群あれば肺疾患に対する治療を強化するなどですね。
そのため、肺高血圧症の原因の診断をすることが非常に重要となります。

「今起きている症状に対する治療」は、「原因に対する治療」で改善しない症状に対して行われます。
肺の血管の通りを良くするために肺血管拡張薬を使ったり、胸水や腹水が溜まっているのであれば、それを尿として出してあげる利尿剤を使ったりします。

肺高血圧症の実際の症例

ここからは犬の肺高血圧症の実際の症例をご紹介していきます。
今回ご紹介する症例は13歳のトイプードルで咳をすることと、週に2回失神をするとのことで当院に来院されました。

胸部のレントゲンを撮影すると肺動脈が拡大していることがわかりました。

この検査結果を踏まえ心臓超音波検査を行ったところ、肺動脈、右心系の拡大と三尖弁での逆流が見られました。

 

心臓超音波検査画像

 

また、血液検査では血栓傾向を反映する指標のFDPが90.6μg/ml(基準値 5.0μg/ml以下)、Dダイマーが36.38μg/ml(基準値 2.0μg/ml以下)、TATが1.9μg/ml(基準値 0.2ng/ml以下)と軒並み高値だったため、今回の症例は第4群の肺高血圧症と診断しました。

この診断を踏まえ肺血管拡張薬を開始したのですが、治療開始後39日で胸水が溜まるようになり、利尿薬を追加し、定期的に胸水を抜く処置を行いました。

 

胸水貯留中のレントゲン画像

その後は肺血管拡張薬と利尿剤をそれぞれ数種類ずつ組み合わせながら治療をしていき、治療開始してから117日後には胸水も見られなくなりました。

治療開始後152日で残念ながら亡くなってしまいましたが、治療していた間薬によって症状は緩和してあげることができました。

まとめ

肺高血圧症は予後も悪く治療が困難な病気です。

それでもしっかり診断治療をすることで症状を緩和させることができ、生存期間を延ばしてあげることも可能です。

肺高血圧症の犬を飼われていて治療に悩まれている方は、いつでも当院にご相談ください。

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