症例紹介

Case

2024/4/4

消化器科

犬の胆嚢炎について実際に胆嚢摘出を行った犬の1例

胆嚢炎を起こす原因は様々であり、日常的に多く遭遇する疾患です。
その症状は多岐にわたり、軽度のものから入院が必要な重度なものまで様々で、時に治療は困難を極めます。

今回はそんな胆嚢炎を繰り返さないために、外科的な治療を行った症例を経験しましたのでご紹介します。

胆汁と胆嚢の働き

胆汁は肝臓で作られ、食事中の脂肪を分解しやすいようにし、消化された脂肪が腸に吸収することを助ける働きがあります。
また、血液中の老廃物であるビリルビンとコレステロールの排泄も担っており、その役割は動物の体に無くてはならないものです。
胆嚢は肝臓で作られた胆汁を一時的に貯蔵しておく場所で、胆嚢は貯めている胆汁を胆嚢内で濃縮し、必要な時に十二指腸へ排泄されます。

胆汁の排泄は食事中に含まれる脂肪が十二指腸に到達すると、開始されます。
その仕組みは、胆嚢の壁が収縮することで起こり、胆嚢から総胆管という十二指腸へ繋がる管を通って排泄されます。

胆嚢炎とは

犬の胆嚢炎は何らかの原因で、胆嚢に炎症が起こることで発症し、急に症状を出す急性胆嚢炎と、比較的ゆっくりと進行する慢性胆嚢炎があります。
日本での発症は10歳前後と比較的中高齢で起こり、トイプードル、チワワ、ミニチュアダックスフント、ミニチュアシュナウザーなどのトイやミニチュア犬種でよく見られるという報告があります。

胆嚢炎の症状として、

  • 嘔吐
  • 食欲不振
  • 元気消失
  • 黄疸
  • 腹部の痛みや不快感
  • 下痢
  • 発熱

などが挙げられます。

検査は血液検査、腹部超音波検査を実施することが多く、腹水が溜まっている場合は腹水性状検査を実施します。
血液検査ではALT、ALP、ビリルビン、コレステロール値の上昇や、白血球やCRPの上昇も認められることが多いため、それらを含めた血液検査を実施し、超音波検査では、胆嚢、総胆管、肝臓の状態と復水の有無を確認します。

原因

急性胆嚢炎は細菌感染が関連していることが多いと報告されており、多くは十二指腸の胆汁の出口から感染します。
感染は、クッシングなどのホルモン疾患やステロイド剤の服用を余儀なくされている場合に悪化する可能性が高いとされています。
胆嚢粘液嚢腫や胆石などの胆嚢内の異常が胆汁の鬱滞(排泄が滞る)を引き起こすことも、細菌の感染の温床となることがわかっています。
慢性胆嚢炎はあまり研究が行われておらず、一説では脂質代謝の異常がその原因の一つとなっていると言われています。

治療

治療は内科治療、外科治療に大別されます。

内科治療では胆汁を胆嚢から出しやすくする利胆剤や抗生剤を使用します。
しかし、細菌感染による胆嚢炎を抗生剤により治療した際も、症状の緩和は一時的であり、外科手術を行なうべきだったという報告もあります。

外科治療は胆嚢の摘出です。
外科治療を検討すべき症例は、胆嚢炎の原因に胆嚢粘液嚢腫、胆石、胆嚢壁の肥厚、胆嚢破裂がある症例や、内科治療でのコントロールが困難な黄疸と腹水がある症例と言われています。

実際の症例

当院で実際に外科治療をおこなった症例をご紹介します。

症例は13歳のトイプードル、未避妊メスです。
食欲不振と嘔吐を理由に当院へ受診されました。
各種検査を実施したところ、血液検査では

  • ビリルビン 1.2mg/dl(基準値 ~0.5mg/dl)
  • ALT 83U/L(基準値 17~78U/L)
  • ALP 332U/L(基準値 ~89U/L)
  • AST 117U/L(基準値 17~44U/L)

と肝臓の値が高値でした。
超音波検査では胆嚢内に不動性の貯留物が確認され、血液検査の結果と合わせて考え、胆嚢粘液嚢腫が強く疑われました。

 

胆嚢粘液嚢腫により胆嚢炎、肝炎が起こっていると考え、静脈点滴、抗生剤、制吐剤などによる入院治療を10日間行い、状態は良化していきました。
退院後も利胆剤を継続し、1ヶ月後の再診で血液検査は正常値に戻ったものの、胆嚢内の様子に変化が無かったため、胆嚢摘出手術と肝臓の細胞を一部採る生検を行いました。

病理組織検査の結果は胆嚢粘膜過形成と肝炎でした。
術後の経過良好で今では元気に過ごせるようになりました。

まとめ

胆嚢粘膜過形成は、症状が出ないことが一般的ですが、胆嚢壁の肥厚を起こし、胆嚢炎を起こす原因となることもあります。

今回ご紹介した症例の胆嚢炎の原因に粘膜過形成があったことから、手術をしなければ再発を繰り返していた可能性があります。
胆嚢疾患の認められる約35%の症例で肝臓に炎症がある、との報告もあり、今回の症例も肝炎が起こっていました。
胆嚢炎を起こす原因は様々ありますが、その症状は嘔吐や下痢など胃腸炎と大きく変わらないこともあり、受診が遅れることも多々あります。

心当たりのある症状が見られたらお早めに動物病院へご相談ください。

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