2026/11/6
腫瘍科
犬の肛門嚢腺癌の一例犬の肛門嚢腺癌を手術で摘出した症例を解説
「愛犬の肛門の周りが腫れている」
「最近、便が出にくそうにしている」
「犬の肛門にも癌ができるの?」
このようなお悩みをお持ちの飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
犬の肛門周囲にはさまざまな腫瘍が発生することがあり、その中でも肛門嚢腺癌は転移に注意が必要な悪性腫瘍です。
犬の肛門嚢腺癌は初期には目立った症状がない場合もあるため、日頃のケアや定期的な健康診断で異常を見つけることが重要になります。
本記事では、トリミングをきっかけに左側の肛門嚢腺癌が発見され、その後の定期検診で右側にも腫瘍が見つかった12歳のゴールデンレトリバーの症例をご紹介します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬の肛門周囲に異常を見つけた際の参考にしていただければ幸いです。
犬の肛門周囲にできる腫瘍と転移のリスク
犬の肛門周囲には、肛門周囲腺や肛門嚢などがあり、これらの組織から腫瘍が発生することがあります。
代表的な腫瘍には
- 肛門周囲腺腫
- 肛門周囲腺癌
- 肛門嚢腺癌
などが挙げられます。
肛門周囲腺腫は良性腫瘍ですが、肛門周囲腺癌や肛門嚢腺癌は悪性腫瘍です。
とくに肛門嚢癌は周囲の組織への浸潤やリンパ節への転移を起こしやすいことが知られています。
報告によって差はありますが、転移率は46〜96%とされており、早期発見と適切な治療が重要です。
犬の肛門嚢腺癌では
- 肛門周囲にしこりができる
- 排便時にいきむ
- 便が細くなる
- 排便しにくくなる
- 肛門周囲を気にして舐める
といった症状が見られることがあります。
ただし、腫瘍が小さい段階では症状が現れず、健康診断などで偶然発見されるケースも少なくありません。
犬の肛門嚢腺癌はどのように診断・治療をする?
肛門嚢腺癌が疑われる場合には、肛門周囲の触診や直腸検査によって腫瘤の有無が確認されます。
直腸検査とは肛門から指を入れて直腸や肛門嚢周囲の状態を調べる検査です。
また、肛門嚢腺癌はリンパ節や肺などへ転移する可能性があるため、レントゲン検査や超音波検査などによる全身の評価も重要になります。
確定診断には採取した組織を詳しく調べる病理検査が必要です。
肛門嚢腺癌の主な治療方法には、
- 外科手術による腫瘍の摘出
- 放射線治療
- 抗がん剤などによる薬物療法
があります。
切除可能な腫瘍では外科手術が重要な治療選択肢となり、手術を実施した犬では、実施しなかった犬と比較して生存期間が長かったという報告もあります。
ただし、腫瘍の大きさや転移の有無によって適切な治療方法は異なるため、個々の状態に合わせた治療が大切です。
薬物療法では分子標的薬であるトセラニブという抗がん剤が使用されることもあります。
トセラニブは従来の抗がん剤とは異なる仕組みで腫瘍の増殖に関わる働きを抑える薬です。
消化器症状などの副作用が生じる可能性もあるため、定期的な検査を行いながら使用されます。
トリミングと定期検診で肛門嚢腺癌が発見された犬の症例
今回ご紹介するのは、12歳の去勢済みのゴールデンレトリバーです。
トリミングのために来院した際、左側の肛門腺が腫れていることに気づきました。
その後、左側の腫瘤に対して外科的切除を実施し、肛門嚢腺癌と診断されています。
術後は抗がん剤治療としてトセラニブを使用しながら、定期的な経過観察を続けていました。
そして手術から7ヶ月後に定期健診で直腸検査を行ったところ、今度は右側の肛門腺に腫脹が確認されました。
レントゲン検査では明らかな転移を疑う所見はなく、超音波検査でもリンパ節の腫大は認められませんでした。
そのため、右側の腫瘤に対しても外科的切除が実施されました。
手術中の写真です。

肛門嚢は肛門のすぐ近くに位置しているため、周囲の組織に注意しながら腫瘤を摘出する必要があります。
摘出した肛門嚢腺癌の写真です。

摘出した腫瘤の病理検査では肛門嚢腺癌と診断され、切除マージンも確保されていることが確認されました。
切除マージンとは腫瘍の周囲に正常な組織を含めて切除できているかを示すものです。
今回の症例では、定期検診によって右側の異常を発見できたことが、早期の外科治療につながりました。
また、最初の左側の腫瘍はトリミング時に発見されています。
このように、トリマーと獣医師が連携することで、普段の診察だけでは気づきにくい変化を発見できる場合もあります。
肛門嚢腺癌は手術で切除できた場合でも再発や転移の可能性があるため、今後も定期的な検査が重要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
犬の肛門周囲には良性腫瘍だけでなく、肛門嚢腺癌のような転移しやすい悪性腫瘍が発生することがあります。
今回の症例では、トリミングで左側の腫瘍が発見され、その後の定期検診によって右側の腫瘍も見つかり、外科的切除を行うことができました。
肛門周囲のしこりは外から見ただけではわかりにくい場合もあるため、定期的な診察が大切です。
また、愛犬が排便しにくそうにしている場合や、肛門周囲に腫れが見られる場合には、早めに動物病院を受診しましょう。
当院では、トリミングと獣医療の連携による異常の早期発見に取り組むとともに、腫瘍の外科治療や術後の経過観察にも対応しています。
愛犬の肛門周囲に気になる変化がありましたら、お気軽にご相談ください。