2026/9/17
腫瘍科
膀胱の平滑筋肉腫を摘出した犬の1例犬の膀胱腫瘍について
愛犬の膀胱にしこりがあると診断されたら、多くの飼い主様は不安を感じるのではないでしょうか。
犬の膀胱にできる腫瘍には良性から悪性のものまで、さまざまな種類があります。
また、初期には目立った症状が現れにくく、別の病気の検査中に偶然発見されるケースも珍しくありません。
今回は犬の膀胱腫瘍の基本的な知識とあわせて、当院で実際に膀胱の平滑筋肉腫を摘出した症例をご紹介します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬に膀胱腫瘍が見つかったときの参考にしていただけると幸いです。
犬の膀胱腫瘍とは
犬の膀胱腫瘍とは、膀胱の壁にできるしこり(腫瘍)の総称です。
膀胱の壁は、内側から
- 粘膜:尿に直接触れる面で、伸び縮みしやすい移行上皮(尿路上皮)という特殊な上皮に覆われた層
- 筋層:尿を押し出すための平滑筋という筋肉でできた層
- 漿膜(しょうまく):膀胱の外側を包む薄い膜
という3つの層で構成されています。
膀胱腫瘍はどの層からも発生する可能性があり、どの層にできるかによって腫瘍の種類や性質が変わってきます。
膀胱腫瘍は初期の段階では目に見える症状がほとんど現れず、健康診断や他の病気の検査中にたまたま発見されることも少なくありません。
犬の膀胱腫瘍にはどんな種類があるの?
犬の膀胱にできる腫瘍は大きく悪性腫瘍と良性腫瘍に分けられます。
ここではそれぞれの特徴について詳しくみていきましょう。
悪性腫瘍
犬の膀胱に発生する悪性腫瘍でもっとも多いのは、膀胱の内側の粘膜から発生する移行上皮癌(いこうじょうひがん)という腫瘍です。
犬の膀胱腫瘍全体の約80〜90%を占めるとされています。
移行上皮癌は他の臓器に転移しやすく、早い段階からの治療が求められる腫瘍です。
そのほかに、膀胱の筋層から発生する平滑筋肉腫(へいかつきんにくしゅ)という悪性腫瘍もあります。
平滑筋肉腫は移行上皮癌と比べると発生する頻度は低いものの、膀胱の壁の奥深くにある筋肉から発生するという特徴があります。
そのため、初期には血尿などの分かりやすい症状が出にくく、発見が遅れやすい点に注意が必要です。
良性腫瘍
膀胱にはポリープなどの良性腫瘍ができることもあります。
良性腫瘍は基本的に他の臓器に広がることはありません。
手術で完全に取りきれば再発のリスクも低く、その後の生活に大きな影響を与えることも少ないです。
ただし、良性であっても腫瘍が大きくなると尿が出にくくなったり、血尿が出たりすることがあるため、早期の治療が重要です。
犬の膀胱腫瘍の症状
犬の膀胱腫瘍で見られる代表的な症状には、
- 血尿
- 頻尿
- 排尿時の痛み
などが挙げられます。
膀胱腫瘍の中で、もっとも多い移行上皮癌は、尿に直接触れている粘膜から発生するため、腫瘍の表面が傷ついて比較的早い段階から症状が出ることが多いです。
尿の色がいつもより赤っぽい、排尿時に痛そうにしているといった変化に注意しましょう。
これらの症状は膀胱炎とよく似ているため、動物病院で検査を受け、原因を特定することが大切です。
一方、平滑筋肉腫は粘膜の奥にある筋層から発生するため、初期の段階では血尿や頻尿といった症状がでないこともあります。
腫瘍がある程度大きくなると膀胱のスペースが狭くなり、頻尿やいきみが見られることもありますが、別の病気の検査で偶然発見されるケースも珍しくありません。
犬の膀胱腫瘍の検査
膀胱腫瘍が疑われた場合、まず行われるのは超音波検査(エコー検査)です。
エコー検査では、腫瘍の大きさや形、膀胱のどの位置にできているかなどを確認することができます。
エコー検査は腫瘍が大きくなっていないかを時間を追って観察するのにも適した検査です。
エコー検査だけでなく、X線検査(レントゲン検査)を行い、膀胱全体の様子や、肺など他の臓器に腫瘍が広がっていないかを確認することも大切です。
ただし、画像検査だけでは腫瘍の種類を正確に区別するのは難しいため、最終的な確定診断には腫瘍の細胞や組織を採取し、顕微鏡で詳しく調べる病理検査が欠かせません。
膀胱腫瘍では、病理検査の結果をもとに腫瘍の種類に応じた治療計画が決められます。
犬の膀胱腫瘍の治療
犬の膀胱腫瘍の治療法は、腫瘍の種類や進行の程度などによって異なります。
たとえば、移行上皮癌は周囲の組織に広がりやすく、完全に手術で取りきるのが難しいケースが少なくありません。
そのため、消炎鎮痛薬を使った内科治療や、抗がん剤を用いた化学療法が選択されることも多いです。
一方、平滑筋肉腫や良性腫瘍は膀胱の壁の一部にとどまって育つケースが多いため、手術で腫瘍を取り除くことが第一選択となります。
これらの腫瘍は完全に取りきることができれば再発や転移のリスクが比較的低く、術後に抗がん剤などの追加治療を必要としないことがほとんどです。
いずれの腫瘍の場合も、腫瘍の種類や愛犬の体調を総合的に判断し、獣医師と相談しながら最善の方針を決めていくことが大切です。
膀胱腫瘍(平滑筋肉腫)の摘出を行った犬の症例
ここでは当院で実際に膀胱の平滑筋肉腫を摘出した症例をご紹介します。
今回の症例は、9歳3か月の去勢雄の雑種犬です。
急性肝炎の治療で来院した際に、精密検査としてレントゲン検査とエコー検査を行ったところ、膀胱腫瘍が偶然見つかりました。
こちらがレントゲン検査とエコー検査の画像です。


その後、定期的に経過を追っていましたが、腫瘍が増大傾向にあることから、飼い主様とご相談のうえ手術を実施しました。
こちらが手術中の写真です。


取り出した組織を病理検査に提出した結果、平滑筋肉腫と診断されました。

病理検査の結果から他の臓器への転移の可能性は低いと判断し、術後の回復も良好だったため、追加治療は行わずに、定期的な画像検査で経過を見守る方針としました。
今回のケースでは、別の病気の検査がきっかけで膀胱腫瘍を早期発見し、目立った症状が出る前に対処できたことが、良好な術後経過につながっています。
まとめ
犬の膀胱腫瘍は、種類によって治療法や予後が大きく異なります。
特に平滑筋肉腫のような腫瘍は症状が出にくいため、飼い主様が気づかないうちに進行してしまう可能性がある病気です。
定期的な健康診断や画像検査を受けることで、今回の症例のように症状が出る前の早い段階で発見することが可能になります。
当院では腫瘍科の診療に力をいれています。
愛犬の排尿の様子に少しでも気になる点がある場合や、健康診断で異常を指摘された場合は、早めに獣医師へご相談ください。