2026/7/17
感染症科
下痢と食欲不振が続いた14歳の猫の一例猫のFIPのドライタイプ

「猫の下痢がなかなか治らない」
「食欲が落ちて熱もあるけれど、原因がわからない」
このような症状の原因としてFIPが隠れていることがあります。
FIPというと「若い猫が発症する病気」「腹水がたまる病気」というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
しかしFIPは高齢猫でも発症する可能性があり、ドライタイプでは腹水や胸水などのわかりやすい症状がみられないことも多いです。
当院でも下痢と食欲不振が続いた14歳の猫に対してFIPの治療を行い、寛解した例があります。
今回はFIPドライタイプの特徴について、当院で実際に治療を行った症例とともに詳しく解説いたします。
ぜひ最後までお読みいただき、猫のFIPを早期発見するための知識を深めていただければ幸いです。
猫のFIPのドライタイプとは
FIPには大きく分けてウェットタイプとドライタイプがあります。
ウェットタイプでは腹水や胸水などの液体が体内にたまることが特徴です。
一方でドライタイプでは、腹水や胸水が目立たず、全身のさまざまな場所に炎症が起こります。
FIPドライタイプの症状は
- 発熱
- 下痢
- 嘔吐
- 黄疸
- 目の異常
- ふらつき
などさまざまです。
どの臓器に炎症が起こるかによって症状が異なるため、一見しただけではFIPと気づけないことも少なくありません。
猫のFIPドライタイプは診断が難しい
FIPドライタイプは診断が難しい病気です。
ウェットタイプでは腹水や胸水を採取し、詳しい検査を行うことでFIPを疑う重要な情報が得られることが多いです。
一方でドライタイプでは、このような液体の貯留がみられないことも多く、検査に使用できる検体を採取することが難しい場合があります。
また発熱や下痢などの症状は、FIP以外のさまざまな病気でもみられます。
そのため、一つの症状や検査結果だけでFIPと判断することはできません。
- 血液検査
- 画像検査
- 猫コロナウイルスに関する検査
- 症状
など複数の情報が必要です。
「1つの病気を診断するのにこんなに検査が必要なの?」と思われる方も多いと思います。
特に原因のはっきりしない発熱や食欲不振が続き、一般的な対症療法を行っても改善しない場合にはFIPが疑われ、このようなたくさんの検査が必要になることがあります。
FIPは高齢猫でも発症する

FIPは若い猫に多い病気として知られています。
特に子猫や若齢猫での発症が多いため「高齢猫ならFIPではない」と考えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
しかしFIPは高齢猫でも発症する可能性があります。
高齢猫では
- 腎臓病
- 糖尿病
- 甲状腺機能亢進症
- 腫瘍
- 消化器疾患
など、さまざまな病気が食欲不振や体重減少の原因となります。
そのため下痢や食欲不振がみられてもFIPがすぐに疑われるとは限りません。
基礎疾患を持つ高齢猫では症状の原因を慎重に見極め、治療への反応や検査結果を確認しながら診断が進められます。
猫のFIPの治療
FIPは以前まで有効な治療法がほとんどなく、命を救うことが難しい病気と考えられていました。
しかし近年はウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬による治療が行われるようになり、適切な治療によって良好な経過をたどる猫も増えてきました。
FIPの治療に使用される薬には主に
- GS-441524
- モルヌピラビル
- レムデシビル
などがあります。
これらの治療薬は国内で動物医薬品としての認可はなく、適応外使用という形でご家族の同意のもと使用しております。
GS-441524
GS-441524は、FIPの原因となる猫コロナウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬です。
現在のFIP治療で最も多く研究されている薬の一つで、高い治療効果が報告されています。
今回ご紹介する症例でもGS-441524による治療を行いました。
治療中は症状の変化だけでなく、血液検査の数値を確認しながら治療への反応を評価する必要があります。
GS-441524は国内では人薬としても動物薬としても承認されていません。
しかしイギリスやオーストラリアでは猫のFIP治療薬として承認されており、多くの治療実績があります。
モルヌピラビル
モルヌピラビルもウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬です。
この薬は人のCOVID-19の治療薬として開発されました。
猫のFIPへの使用についてはGS-441524ほど多くの研究はありませんが、人薬としては国内で承認されている薬です。
モヌルピラビルはFIPの猫に対する治療効果が報告されており、GS-441524やレムデシビルと比べて安価であることが大きなメリットです。
レムデシビル
レムデシビルは猫の体内で代謝されてGS-441524に変化し、ウイルスの増殖を抑える薬です。
特に重症で内服が難しい猫では、注射による治療の選択肢として使用が検討されることがあります。
猫の状態が安定し、内服が可能になった段階で経口の抗ウイルス薬へ切り替える場合もあります。
レムデシビルも人薬として国内で承認されている薬です。
実際の症例
今回ご紹介するのは、当院の院長と暮らしている14歳の雑種猫です。
この猫はもともと糖尿病を患っており治療を行っていましたが、ある日から
- 下痢
- 食欲不振
- 39.7℃の発熱
がみられるようになりました。
血液検査では炎症の指標であるSAAが150を超えており、対症療法を行っても症状は改善しませんでした。
便の外注検査を行うと猫コロナウイルス陽性、猫コロナウイルス抗体価は200という結果でした。
猫コロナウイルスが変異を起こしたものがFIPウイルスです。
猫コロナウイルス抗体価は「その猫が過去に猫コロナウイルスに接触した可能性があること」を示す数値です。
この結果のみでFIPを診断することはできませんが
- 症状
- 検査結果
- 治療への反応
を総合的に評価し、FIPドライタイプを疑ってGS-441524による治療を開始しました。
2カ月間の投薬後には症状が改善し、SAAは3.75未満まで低下しました。
便の外注検査でも猫コロナウイルスの陰性化が確認されたため、投薬を終了し現在も経過を観察しています。
まとめ

FIPは若い猫だけでなく、高齢猫でも発症する可能性があります。
ドライタイプのFIPでは腹水や胸水などの特徴的な変化がみられず、下痢や食欲不振、発熱などの症状から始まることもあります。
FIPドライタイプは診断が難しい病気だからこそ、猫の小さな変化や治療後の経過を丁寧に確認することが大切です。
当院では今回行ったGS-441524による治療以外にも、モヌルピラビルやレムデシビルによる治療にも対応しております。
猫の体調不良が長引いていることにお悩みの際は、ぜひ当院までご相談ください。