症例紹介

Case

2026/6/3

消化器科

フレンチブルドッグの紐状異物誤食の一例犬の紐状異物誤食で胃切開術を行った症例を解説

「気づいたら紐がなくなっていた」
「おもちゃのロープをかじっていたら、破片がなくなっていた」
「ゴミ箱の中身が荒らされていた」
こうした経験をお持ちの犬の飼い主様は少なくないでしょう。
異物誤食の中でもとくに注意が必要なのが、紐やストッキングといった細長い柔らかい素材の誤食です。
このような異物は「紐状異物」と呼ばれ、通常の異物誤食とは異なる危険なメカニズムで消化管を傷つけます。

本記事では、紐状異物誤食の危険性と実際に当院で手術を行った症例をご紹介します。
ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。

犬の紐状異物誤食とはどんな状態?

紐状異物誤食とは、

  • ロープ
  • ストッキング
  • タオル

など、細長い柔らかい素材を飲み込んでしまう異物誤食のことを指します。
通常の異物誤食と異なるのは、腸に与えるダメージの大きさです。
紐状異物誤食では、アンカーと呼ばれる紐の一方の端が胃の中や舌の根元などに引っかかって固定されることが大きな問題になります。
アンカーが引っかかった紐状異物に対しても、腸は内容物を送り出そうと蠕動運動を繰り返します。
しかし、アンカーに引っかかった紐状異物は前に進めません。
その結果、腸が紐状異物を軸として手繰り寄せられ、アコーディオン状に折り重なってしまいます。
この状態が続くと腸への血流が障害され、腸壁の壊死・穿孔や腹膜炎へと急速に進行します。
腸壁の壊死や穿孔は発見が遅れると命に関わることもある、緊急性の高い状態です。

犬の紐状異物誤食の症状

紐状異物誤食では、主に以下のような症状が見られます。

  • 嘔吐を繰り返す
  • 急激に食欲がなくなる
  • ぐったりする
  • お腹を触られるのを嫌がる
  • 排便が少なくなる

中でも頻回の嘔吐と急激な食欲不振は典型的な症状です。
腸が折り重なって閉塞することで胃腸の内容物が流れなくなり、激しい嘔吐が引き起こされます。
一方で、誤食直後は目立った症状が出ないこともあります。
「紐や糸類がなくなっている」と気づいた時点で、症状が出る前でも早めに動物病院を受診しましょう。

犬の紐状異物誤食の検査

犬の紐状異物誤食が疑われる場合には以下のような検査が行われます。

腹部超音波検査

腹部超音波検査では、胃腸の液体貯留や腸がアコーディオン状に短縮しているかが確認されます。
このアコーディオン状の小腸像は紐状異物に特徴的な所見であり、診断の大きな手がかりとなります。

バリウム造影検査

紐や糸などはレントゲン検査単独では写りにくいため、バリウムと呼ばれる造影剤を飲ませてレントゲン検査が行われます。
このバリウムの流れを追うことで、腸の異常な短縮や閉塞の部位を確認することが可能です。

犬の紐状異物誤食の治療

紐状異物は腸閉塞や壊死のリスクがあるため、基本的には外科手術による摘出が必要です。
腸の状態によっては、損傷した腸の一部を切除する処置が必要になる場合もあります。
治療が早いほど腸へのダメージは少なく、術後の回復もスムーズです。
「紐を飲み込んだかもしれない」と少しでも疑われる場合は、迷わずご相談ください。

犬の紐状異物誤食の予防策

愛犬に誤食癖がある場合、とくに紐状異物誤食には注意が必要です。
犬の紐状異物誤食は、対策をすることで誤食のリスクを減らせます。
すぐに実践できる予防策には以下のようなものがあります。

  • 紐類を犬の届く場所に置かない
  • ほどけにくい紐状のおもちゃを選ぶ
  • 紐状のおもちゃにほつれや破損が見られたらすぐに交換する
  • 蓋付きのゴミ箱を使用する

とくに紐状のおもちゃで遊ぶときは飼い主様が見ているときにだけにすると誤食のリスクが減ります。
また食べ物を縛った袋の口紐や肉・魚の縛り紐なども誤食されることがあるので注意が必要です。

実際の症例:フレンチブルドッグの紐状異物誤食

今回紹介する症例は5歳6か月の去勢雄のフレンチブルドッグです。
頻回の嘔吐と食欲不振を主訴に来院されました。
消化器症状に対してエコー検査を行ったところ、胃腸の液体貯留とアコーディオン状の小腸が確認されました。

エコーで見られるアコーディオンサイン

異物の誤食が疑われたため、バリウム造影検査が行われました。
バリウム造影検査から紐状異物誤食が強く疑われました。

バリウム造影剤を飲んだ後の犬のレントゲン画像

紐状異物が見えるレントゲン画像

腸壊死や腹膜炎への進行リスクがあることを飼い主様にご説明し、緊急で開腹手術を行うことになりました。
腹腔内を確認すると、胃の中にアンカーとなる硬い異物が存在しており、そこから細い紐状の異物が小腸内へと長く続いていることが確認されました。
小腸はアコーディオン状に強く手繰り寄せられており、肉眼でも明瞭に確認できました。

アコーディオン状の腸の状態

腸壁の壊死や穿孔がないことを確認しながらアンカーが存在する胃を切開し、腸内に続く紐状異物を慎重に手繰り寄せながら摘出しました。
切開部を縫合し、腹腔内を洗浄したうえで閉腹しました。

胃切開の様子

紐状異物を摘出している様子

術後は入院管理のもと、点滴や投薬を行いながら経過を観察しました。
術後1か月の時点では元気と食欲は良好で、普段通りの生活を送っています。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
紐状異物誤食は、通常の異物誤食と比べて腸へのダメージが大きく、進行が速い緊急性の高い状態です。
腸がアコーディオン状に折り重なった状態を放置すると、短時間で壊死や穿孔へと進行し、命に関わることも少なくありません。
一方で、早期に発見・治療を行えば、今回の症例のように順調な回復が期待できます。

当院では消化器科に力を入れており、異物誤食のような緊急手術にも対応できる体制を整えております。
「紐を食べたかもしれない」「頻回に嘔吐する」といった場合は、お気軽にご相談ください。

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