症例紹介

Case

2026/1/16

消化器科

アメリカンショートヘアーの慢性特発性偽性腸閉塞症と診断した一例腸が詰まってないのに腸が動かなくなる病気を解説

「猫が急にご飯を食べなくなった」
「猫が何回も嘔吐をする」
このような猫の食欲不振や嘔吐などの消化器症状を理由に動物病院を受診される飼い主様は多いです。
猫の消化器症状は胃腸炎や腫瘍をはじめとしたさまざまな病気で引き起こされます。
猫の消化器症状の多くは原因を特定することが可能です。
しかし猫に慢性的な消化器症状があるにも関わらず、明らかな原因が見つからないことがあります。
そのような場合は猫の慢性特発性偽性腸閉塞症かもしれません。

今回は実際の症例をもとに、猫の慢性特発性偽性腸閉塞症について解説いたします。
ぜひ最後まで読んでいただき、愛猫に食欲不振や嘔吐が続いた時に役立てていただければ幸いです。

猫の慢性特発性偽性腸閉塞症について

猫の慢性特発性偽性腸閉塞症は腸に物理的な詰まりがないにもかかわらず、腸閉塞のような症状を慢性的に繰り返す病気です。
この病気の特徴としてレントゲン検査やエコー検査では腸が大きく膨らんで見えますが、異物や腫瘍といった詰まりの原因は見つかりません。
人の慢性特発性偽性腸閉塞症は指定難病となっており、腸の動きをコントロールしている神経や筋肉の働きに異常がある先天的な病気と考えられています。
慢性特発性偽性腸閉塞症は動物での報告は非常に少なく、獣医療の現場でもほとんど知られていないまれな疾患です。

猫の慢性特発性偽性腸閉塞症の症状

猫の慢性特発性偽性腸閉塞症は以下のような症状が長期間、良くなったり悪くなったりしながら続くことが特徴です。

  • 繰り返す嘔吐
  • 食欲が安定しない
  • 軟便や下痢が続く
  • 痩せてくる
  • お腹が張って見えることがある

これらの症状は炎症性腸疾患や膵臓の病気などでもよく見られますね。

猫に上記のような症状が見られても、最初から慢性特発性偽性腸閉塞症が疑われることはほとんどありません。

猫の慢性特発性偽性腸閉塞症の診断

猫の慢性特発性偽性腸閉塞症は決め手となる検査が存在しないため、診断がとても難しいです。
猫の慢性特発性偽性腸閉塞症では以下の検査が行われます。

  • 血液検査
  • レントゲン検査
  • エコー検査
  • CT検査
  • 内視鏡検査
  • 腸生検

CT検査や腸の組織を調べても明らかな炎症や腫瘍が確認できない場合があります。
そのため実際には、

  • 異物や腫瘍はない
  • 一般的な治療に反応しない
  • 慢性的に腸が拡張している

といった所見を積み重ね、他の病気をすべて否定したうえで初めて疑われる病気です。

猫の慢性特発性偽性腸閉塞症の治療

猫の慢性特発性偽性腸閉塞症を根本的に治す治療法は現在のところありません。
そのため症状に対する対症療法として以下の治療が行われます。

  • 腸の動きを助ける薬
  • 消化酵素の補充
  • 点滴による脱水や電解質異常の補正
  • 消化の良い食事への変更

完全に症状がなくなることは少ないものの、治療の組み合わせによって生活の質を保ちながら長期間付き合うことができる場合もあります。

実際の症例

今回紹介する症例は8歳のアメリカンショートヘアーです。

アメリカンショートヘアーの入院中の画像

生後半年頃から軟便や嘔吐、食欲不振といった症状が断続的に見られていることを理由に来院されました。
これまでに他院で炎症性腸疾患や膵外分泌不全の可能性を指摘されていました。
消化器症状に対して各種検査を行いました。
血液検査では大きな異常はありませんでした。
レントゲン検査では小腸の拡張とガスによる膨満が確認されました。
こちらがレントゲン画像です。

小腸が拡張しているレントゲン画像

小腸が拡張しているレントゲン画像

エコー検査では小腸のうっ滞が確認されました。
こちらがエコー画像です。

小腸が鬱滞しているエコー画像

対症療法として点滴や消化管運動を促進する薬で治療を行いましたが、症状の改善は見られませんでした。
腫瘍や炎症性腸疾患などを疑い、胃と小腸の内視鏡下生検を行いました。
採取した組織の病理検査では小腸に軽度の慢性炎症が確認されました。
こちらが内視鏡検査で確認した胃の画像です。

内視鏡で確認された胃

小腸に確認された軽度の慢性炎症所見から炎症性腸疾患を疑い、治療を行いましたが症状の改善が見られませんでした。
長期間に渡り症状が続き、内科治療にも反応が乏しかったことから飼い主様と相談のうえ試験的開腹手術を行いました。
小腸は通常の2〜3倍に拡張し、ほとんど動いていない状態であることが確認されました。
腸壁は触ると分厚く、硬くなっていました。
こちらが開腹下で確認した腸の画像です。

開腹下で確認した腸

開腹下で腸の一部を採取し、再度病理検査を行いました。
病理検査では腸にリンパ管の軽度拡張が確認されましたが、大きな異常は見つかりませんでした。
生後半年から断続的に続く消化器症状と小腸全体に細胞の形態的異常が確認されなかったことから慢性特発性偽性腸閉塞症と診断しました。
慢性特発性偽性腸閉塞症に対する対症療法として以下の治療を行いました。

  • 定期的な静脈点滴
  • 腸の動きを助ける薬
  • 消化酵素の補充
  • 一回の食事量の制限
  • 給餌回数を増やす

上記の治療を継続することで症状を抑えて日常生活を送ることが可能になりました。

まとめ

猫の慢性特発性偽性腸閉塞症は断続的な嘔吐や食欲不振を引き起こします。
根本的な治療法が現在は存在しないため、病気との付き合い方がとても重要です。
根治ができなくても適切な対症療法を行うことで消化器症状を大きく緩和できます。
猫の慢性特発性偽性腸閉塞症はまれな病気であり、臨床現場でもあまり知られていない病気です。

当院では消化器疾患に力を入れており、猫の慢性特発性偽性腸閉塞症のようなまれな病気にも対応しています。
猫の消化器症状に対して治療中だけど原因が分からない、症状が改善しないなどあれば気軽に当院へお越しください。

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