症例紹介

Case

2025/12/20

整形外科

前十字靭帯断裂の柴犬の一例外科手術によって回復した柴犬

「散歩中に犬が突然キャンと鳴いて歩かなくなった。」
「犬が突然後ろ足を上げてケンケンするように歩いている。」
犬のこのような症状は動物病院の受診理由として非常に多く、その原因の1つに前十字靭帯断裂があります。
前十字靭帯断裂は歩行に支障があるだけでなく痛みも強いため、日常生活に大きな影響を及ぼします。
痛そうに歩く愛犬を見ていると、とても心配ですよね。

今回は犬の前十字靭帯断裂について実際の症例を紹介しながら解説いたします。
ぜひ最後までお読みいただき、犬の前十字身体断裂についての理解を深め、治療を選択する際の参考にしていただけたら幸いです。

犬の前十字靭帯断裂について

まずは前十字靭帯断裂がどのような病気かについて解説します。

前十字靭帯断裂とは

前十字靭帯は膝の関節にあり、太ももの骨である大腿骨とすねの骨である脛骨をつなぎ、関節の安定性を保つ靭帯です。
前十字靭帯が断裂すると膝関節が不安定になり、強い痛みや歩行異常が生じます。
前十字靭帯断裂の原因には

  • 外傷
  • 加齢による靭帯の変性
  • 体重増加
  • 日常的な動作

などがあります。

前十字靭帯断裂はどんな犬で多いか

前十字靭帯断裂は

  • 中高齢の犬
  • 大型犬
  • 肥満の犬

などで発症しやすいといわれています。

前十字靭帯断裂の症状

犬の前十字靭帯断裂でよく見られる代表的な症状は

  • 後肢をかばってびっこをひいて歩く
  • 運動後や立ち上がり時に痛みや違和感を示す
  • 膝関節が腫れる
  • 膝関節の動きが悪くなる

などです。
これらの症状がみられる場合は前十字靭帯断裂だけでなく他の整形外科疾患の可能性もあるため、早めに動物病院への受診が必要です。

前十字靭帯断裂の併発疾患

前十字靭帯断裂では膝関節に併発しやすい疾患があります。
代表的なものは

  • 半月板損傷
  • 変形性関節炎
  • 膝蓋骨内方脱臼

などです。
半月板損傷は前十字靭帯断裂によって膝関節が不安定になることが原因で起こりやすいです。
変形性関節症は膝関節の骨が変形して慢性的な痛みの原因となる病気です。
変形性感染症は前十字靭帯断裂のあと、時間経過とともにほぼ必ず発生するといわれています。
膝蓋骨内方脱臼は膝のお皿が内側にずれてしまう病気で、小型犬でよく見られます。
前十字靭帯断裂で膝の骨の位置がずれると膝蓋骨内方脱臼が起こりやすくなりますね。

犬の前十字靭帯断裂の治療

犬の前十字靭帯断裂の治療には保存療法と外科治療があります。
それぞれについて解説します。

保存療法

症状が軽度の犬や麻酔リスクが高い高齢犬などでは

  • 消炎鎮痛薬
  • 安静管理
  • 体重管理

などによる保存療法を選択することがあります。
これらの保存療法の目的は、痛みを抑えると同時に前十字靭帯にかかる負担を和らげることです。
しかし保存療法のみでは関節の不安定性は改善しないため、前十字靭帯断裂の再発や変形性関節症が進行する可能性があります。

外科治療

若くて運動量が多い犬や中〜大型犬の前十字靭帯断裂では外科治療が推奨されています。
前十字靭帯断裂の術式はいくつかあります。
ここではTPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)という代表的な手術について解説していきましょう。
TPLOは脛骨を切ってずらしてから固定し、関節部分の角度を変えることで前十字靭帯がなくても膝関節が安定するような構造を作る手術です。
TPLOは骨を切ってからピンやプレートで固定する手術のため

  • 犬の負担が大きい
  • 手術の難易度が高い

などのデメリットがあります。
しかし

  • 再発率が低い
  • 術後の回復が良好

などの大きなメリットがあるため、前十字靭帯断裂の際に選択されることが多い手術です。

実際の症例

ここからは当院で実際に治療をした症例について解説いたします。

症例は13歳の柴犬の男の子です。
散歩中に突然「キャン」と鳴いたあと、左後肢を引きずるようになったとのことで来院されました。
身体検査とレントゲン検査の結果、左前十字靭帯断裂と診断しました。
これは検査の時のレントゲン画像です。

術前検査時のレントゲン画像

右足に比べて左足の脛骨が大腿骨の前方にずれていることがわかります。
治療は外科治療でTPLOを実施しました。
これが術後のレントゲン画像です。

TPLO手術後のレントゲン画像

脛骨を切ってずらした状態でプレートとピンで固定してあることがわかります。
経過は良好で、術後1週間ほどで徐々に左足を地面につけるようになり、術後2ヶ月の時点で軽快にお散歩ができるまでに回復しています。
これは術後2ヶ月時点でのレントゲン画像です。

TPLO手術後2ヶ月のレントゲン画像

TPLOの手術では骨を切るため、経過観察では骨を切った部分に新しく骨が形成されてくっついているかを確認する必要があります。
新しく骨が形成されることを骨形成、骨同士がくっつくことを骨癒合といいます。
このレントゲン画像では骨を切った部分の隙間が埋まっており、骨形成が順調で骨癒合も進んでいるということが確認できますね。

まとめ

犬の前十字靭帯断裂は放置すると慢性的な痛みや関節の変形につながる可能性があります。
犬の歩き方に違和感を感じたらなるべく早く動物病院を受診しましょう。

当院では犬の前十字靭帯断裂に対する手術を含め、整形外科疾患に対する専門的な治療に対応可能です。
犬の歩き方についてお困りの際はぜひ当院にご相談ください。

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