2025/12/1
整形外科
トイプードルの股関節脱臼の一例再発しやすい犬の股関節脱臼の治療の重要性を解説
「愛犬が急にキャンと鳴いて足を上げた」
「散歩中に後ろ足を地面につかなくなった」
そんな症状が見られて、不安になったことがある飼い主さまもいらっしゃるのではないでしょうか?
足のトラブルには様々な原因がありますが、中でも強い痛みや歩行困難を伴うものの一つに股関節脱臼(こかんせつだっきゅう)があります。
股関節脱臼は適切な診断と、その犬の全身状態に合わせた治療を行うことで、痛みのない生活を取り戻してあげることが可能です。
今回は犬の股関節脱臼について実例を交えて解説していきます。
犬の歩様が気になる方はぜひ最後まで読んで参考にしてください。
犬の股関節脱臼とは?
股関節は骨盤のくぼみ(寛骨臼:かんこつきゅう)に、太ももの骨の先端(大腿骨頭:だいたいこっとう)がはまり込むことで形成されています。
この大腿骨頭が寛骨臼から外れてしまった状態を股関節脱臼と呼びます。
一度脱臼した股関節は不安定になりがちです。
そのため股関節脱臼は整復をしても再び脱臼することがあります。
完治を目指すには専門的な管理が必要です。
足を痛がるなどの症状がある場合は早めに動物病院で診察を受けることをおすすめします。
犬の股関節脱臼が起こりやすい原因
犬の股関節脱臼は、主に以下のような原因で起こりやすいとされています。
- 落下などによる強い衝撃
- 滑りやすい床での転倒
- ソファやベッドの上り下り
また股関節脱臼が起こりやすい犬種としては
- トイ・プードル
- チワワ
- ポメラニアン
上記のような小型犬での発生が多い傾向にあります。
股関節形成不全などの持病がある大型犬でも、股関節脱臼は起こりやすいため注意が必要です。
犬の股関節脱臼の主な症状
股関節脱臼がおこると、強い痛みが生じ、以下のような症状がみられます。
- 脱臼した足を挙げて歩く
- 足を触られるのを嫌がる
- 足の長さが左右で違って見える
股関節脱臼は放置すると、慢性的な関節炎や歩行障害を引き起こしてしまうため、早めの診断と治療が大切です。
股関節脱臼の治療方法
股関節脱臼の治療方法には、大きく分けて2つの方法があります。
手術をせずに戻す非観血的整復と、外科手術を行う観血的整復です。
非観血的整復
非観血的整復は獣医師が外から骨を操作して、関節を元の位置に戻す方法で、切開せずに済むため体への負担が少ないのが良い点です。
しかし整復してもすぐに再脱臼してしまう可能性があるのが難点といえます。
観血的整復
観血的整復は一度整復してもうまくいかない場合や、再発のリスクが高いと判断された場合に選択される方法です。
股関節脱臼の手術には以下のようにいくつか種類があり、年齢や身体の大きさなどに合わせて最適な方法が選ばれます。
- トグルピン法(靭帯再建術)
- 人工股関節全置換術(THR)
- 大腿骨頭切除術(FHO)
それぞれの方法について以下に詳しく説明します。
トグルピン法
トグルピン法は切れてしまった靭帯の代わりに、特殊なピンと丈夫な糸を使って関節を元の位置に固定し直す方法です。
本来の関節の形を温存できるため、回復すれば元通りの運動機能を維持しやすいのがメリットといえます。
しかしトグルピン法は糸やピンに依存する方法であるため、術後に激しく動くと再び緩んでしまうリスクがあり安静管理が必要です。
人工股関節全置換術
人工股関節全置換術は痛んでしまった股関節をすべて取り除き、人工関節に置き換える手術です。
痛みから解放され、運動機能もほぼ元通りに回復できるため、大型犬や活動的な犬にとっては最適な治療法とされています。
ただし高度な技術と特殊な設備が必要となるため、実施できる病院は限られています。
大腿骨頭切除術
大腿骨頭切除術は大腿骨の先端にある大腿骨頭を切除してしまう方法です。
骨を切ることに驚かれるかもしれませんが、切除した部分は周囲の筋肉が関節の代わり(偽関節)となり体重を支えられるようになります。
大腿骨頭切除術は骨と骨がぶつかる痛みが物理的になくなり、脱臼を再発しなくなることが最大の特徴です。
股関節脱臼を大腿骨頭切除で治療した実際の症例
今回は糖尿病を持つ11歳のトイプードル、避妊メスの症例についてご紹介します。
今回の症例は、他院の救急外来にて右股関節脱臼と診断されました。
一度は非観血的整復で関節を戻しましたが、再び脱臼を起こしてしまいました。
何度も脱臼をくり返すと、そのたびに痛みを感じるだけでなく、整復がさらに難しくなってしまいます。
そこで、より確実な治療を求めて当院へ紹介、来院されました。

手術前のレントゲンでは股関節脱臼が明確にわかります。
飼い主さまと相談の上、今回は大腿骨頭切除術を行い、脱臼していた大腿骨頭の切除を行いました。


手術後のレントゲンでは大腿骨頭が切除され股関節脱臼が整復されていることが分かります。
手術は無事に成功し、術後は糖尿病の管理をしながら5日ほど入院治療を行いました。
術後の経過は順調で、退院から1週間後の再診時には、手術した足を地面に軽く着いて歩くことが出来るようになりました。
現在はかかりつけの病院にて、糖尿病の管理と合わせて経過観察を続けていただいています。
まとめ
股関節脱臼は一度おこると癖になりやすく、再発を繰り返してしまうことが多い疾患です。
今回のように専門的な全身管理のもとで適切な手術を行えば、糖尿病などの基礎疾患があっても、再び自分の足で歩くことができます。
痛みのない生活は犬の生活の質を高め、長生きへの活力にもなるでしょう。
当院では股関節脱臼だけでなく様々な整形外科疾患への対応実績も豊富です。
気になることがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。