症例紹介

肛門嚢腺癌は早期発見が難しく、いつの間にか転移してしまうこともある悪性腫瘍です。
以下に肛門嚢腺癌と、肛門嚢腺癌のリンパ節転移について説明していきます。

肛門嚢腺癌とは

肛門嚢腺癌は肛門嚢にある細胞が癌化した悪性腫瘍です。
犬では発生率が高く、進行がはやいのが特徴です。
再発や転移をおこしやすいため、慎重な経過観察が必要となります。

肛門嚢腺癌のリンパ節転移とは

肛門嚢腺癌はひどくなると直腸近くの腰下リンパ節へ転移しやすくなる傾向があります。
腰下リンパ節はおなかの深いところにあり、大きくなると周りの神経や臓器などに影響をおよぼし、転移する前よりも治療が難しくなります。
転移があると予後にも大きく関わるため、早期発見がとても重要です。

肛門嚢腺癌は進行し転移してしまうと、さまざまな症状を引き起こします。
ここからは肛門嚢腺癌そのものの症状と、リンパ節へ転移した場合の症状について順に解説していきます。

肛門嚢腺癌の症状

肛門嚢腺癌になると肛門の左右にしこりや腫れがみられます。
ひどくなると便が細くなったり排便しづらかったりなどの症状も現れます。

肛門嚢腺癌がリンパ節転移した場合の症状

肛門嚢腺癌が腰下リンパ節に転移するとリンパ節が尿道や消化管などを押しつぶすことが多く、次のような症状が現れます。

• 排泄困難
• 腹痛
• 食欲不振
• 下半身の浮腫（むくみ）

尿がでない状態がつづくと、膀胱が破裂したり、腎臓に負担がかかったりすることで命に関わる危険性もあり、注意が必要です。
腸管に影響すると、便秘になり食欲不振や嘔吐につながります。
また血管やリンパ管のながれが妨げられると、後ろ足や肛門周りのむくみが起こることもあります。
腫瘍の進行は全身状態に大きな影響を及ぼすため、早めの対応が必要です。

肛門嚢腺癌がリンパ節転移を起こした場合は、以下のような外科治療や抗がん剤治療など複数の方法を組みあわせて対応する必要があります。

• 外科手術
• 抗がん剤治療
• 放射線治療
• 尿道カテーテルの留置

外科手術

肛門嚢腺癌の治療の基本は外科手術です。
しかし転移リンパ節が大きくなると血管や神経に強く癒着し、腫瘍を完全に取りのぞくことが難しくなります。
そのため手術でできる限り腫瘍を減らしつつ、補助的に抗がん剤治療や放射線治療を組みあわせることがあります。

抗がん剤治療

抗がん剤治療は腫瘍の増殖を抑えて症状を軽くする効果が期待できます。
しかし高齢の犬では副作用のリスクを考えながら慎重に判断する必要がある治療方法です。

放射線治療

放射線治療は腫瘍の縮小効果が高いですが、対応可能な施設が限られています。
通院回数が必要になるケースもあり、治療の負担やアクセスなどを含めて検討する必要があります。

今回は16歳のトイプードル、避妊メスの症例をご紹介します。

今回の症例は以前に肛門嚢腺癌の摘出手術を受け、その手術時にはすでに腰下リンパ節への転移がありました。

手術前のエコー画像ではリンパ節の転移がみられ、レントゲン画像では腸管が転移した腫瘍により押されているのが分かります。

腫瘍は強く癒着していたため完全な切除ができず、減量手術のみをおこない、その後は飼い主さまと相談の上、抗がん剤治療はおこなわずに経過観察を続けていました。手術後のエコー画像では腫瘍のサイズが小さくなっていること、レントゲン画像では腸管や膀胱が元の位置に戻っていることがわかりました。

最初の手術から1年程元気に過ごせていたのですが、今回は「排尿姿勢をとるが尿が出ない」という主訴で来院されました。レントゲン・超音波検査の結果、再び大きく腫れたリンパ節が尿道を圧迫し、いわゆる尿道閉塞が起きていることが分かりました。

尿道閉塞が起きると自力で排尿しようとしても尿を出すことができません。
膀胱は過度に拡張し、すぐに対応が必要でした。
治療としては尿道口が確認しづらかったため、麻酔科管理のもと会陰切開をおこない、尿道バルーンカテーテルを設置しました。

処置後は無事に排尿経路が確保され、苦痛は大きく軽減されました。
カテーテルを設置してから現在3ヶ月程になりますが元気に過ごしています。
高齢犬であっても、状態に応じて適切な処置を行うことで、生活の質を維持することができます。

肛門嚢腺癌は転移しやすく、排尿障害など深刻な症状をおこします。
特にリンパ節への転移は、尿道や腸管などを圧迫し命にかかわるため、注意が必要です。
高齢犬でも早めに適切な処置を行うことで苦痛を大きく減らすことができます。

当院には腫瘍科認定医が在籍しており、肛門嚢腺癌を含む腫瘍疾患にも専門的に対応しております。
少しでも不安なことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

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