症例紹介

Case

2025/10/2

消化器科

Mix猫の消化管内紐状異物による腸閉塞の一例身の回りにある紐に注意!

猫は好奇心旺盛な動物で、糸やリボンなど身近にある紐にも興味を示します。
しかし、もし紐を間違って飲み込んでしまうと、お腹に詰まって命に関わる症状につながりかねません。

今回は、当院で実際に治療を行ったMix猫の症例を通して、紐状異物を誤食したときの症状、治療の流れなどをご紹介します。
誤食を防ぐための環境づくりや異常に気づいたときの素早い対応の大切さに気づいていただけたら幸いです。

猫の紐状異物の誤食とは

異物の誤食とは、食べ物ではないものを誤って飲み込んでしまうことです。
誤食にはおもちゃや薬など色々なケースがありますが、中でも紐状異物の誤食は特に注意が必要なものの1つです。

紐状異物が危険な理由

まっすぐで短い紐なら便と一緒に出てくることが多いです。
しかし、結び目があるものや先端に針などがついているものは、消化管の壁に引っかかって詰まりの原因になることがあります。
紐の一部が引っかかったままもう片方が消化管の先に進んでいくと、腸管がたぐり寄せられて折り重なり、以下のような重篤な症状につながります。

  • 腸管の血流障害による壊死
  • 腸閉塞
  • 腸穿孔

腸管が破れたり穴が空いたりして消化管の内容物が漏れ出すと、腹膜炎や敗血症など命に関わる状態を引き起こすこともあり、できるだけ早く治療を始めることが大切です。

紐状異物の誤食の原因

誤食は若い猫に多く、以下のような紐が誤食の原因になることがあります。

  • 猫じゃらしやおもちゃに付属する紐
  • 裁縫用の糸や毛糸
  • ビニール紐
  • 洋服の紐
  • 釣り糸やワイヤー

これらの物が床や机の上に出しっぱなしになっていると、猫が飲み込んでしまう危険があるので注意しましょう。

紐状異物の誤食の症状

紐状異物を食べてしまった場合、以下のような症状が現れます。

  • 繰り返す嘔吐
  • 食欲不振
  • 元気消失
  • 排便の停止
  • 下痢

上記の症状は、他の病気でもよくみられる症状です。
そのため、症状から紐状異物の誤食が原因であると診断するのは難しいですね。

異物が口から見えていても引っ張らない

紐状異物の誤食では、紐の一部が歯や舌に絡まっていることもよくあります。
このようなときは、絶対に紐を引っ張らないでください。
紐の先がすでに胃や腸に入っている可能性もあり、無理に引っぱると消化管を傷つけてしまうかもしれません。
紐が見えていても触らずに、そのまま急いで動物病院へ連れていきましょう。

紐状異物の誤食の診断

誤食の診断には以下の画像検査が不可欠です。

  • X線検査:消化管の異常の有無を確認する
  • 超音波(エコー)検査:腸の状態を詳しく確認する
  • 造影X線検査:紐状異物の存在や位置をはっきり確認したいときに実施する

猫が落ち着いていれば、無麻酔で検査を受けられます。
どうしてもじっとできない場合は、安全のために鎮静剤を投与することもあります。

紐状異物の誤食の治療

紐状異物が自然に排出される可能性はとても低いため、外科手術が基本です。
病変部の状況によっては、以下の処置もする必要があります。

  • 腸管の部分的な切除と両端をつなぎ合わせる
  • 1週間程度の入院と術後の管理

退院の時期は猫の全身の状態や排便の様子を見て決定されます。

異物誤食の予後

誤食から処置までの時間が短いほど、予後は良好です。
一方で、治療が遅れると腸管が壊死したり穿孔を起こしたりして、命に関わる危険性が高まります。

実際の症例:Mix猫の消化管内紐状異物

当院で治療した、猫の消化管内紐状異物の症例をご紹介します。
1歳半の雑種、避妊手術済みの女の子です。
「昨日から嘔吐が3回あり、今朝はごはんを食べなかった」との主訴で来院されました。

X線検査を行ったところ、小腸が腫れてうねうねと蛇行している様子がみられました。

小腸の腫大が見られる猫のレントゲン画像

バリウム造影検査では、腸管の蛇行に加え、胃と小腸に1〜2mm幅の紐状異物と思われる陰影が確認されました。

バリウム造影された紐状異物のX線画像

さらに、エコー検査では腸がヒダのように折れ重なっている特徴的な形(アコーディオンサイン)や、内容物が溜まっている様子が観察されました。

検査の結果から、紐状異物を飲み込んだ可能性が高いと考えられたため、その日の夜に、開腹手術を行いました。
手術では、胃と小腸を数箇所切開し、紐を切り分けながら全体を取り出しました。

胃の中に異物がある手術の様子

下の写真は、小腸の中にある紐を取り出している様子です。

小腸から紐状の異物を取り出している様子

これが胃と腸から取り出した紐です。
胃の出口に結び目の部分が詰まっていました。

摘出した紐状異物

術後は順調に回復し、8日間の入院を経て無事退院となりました。

まとめ

猫の紐状異物の誤食は、身近な日用品やおもちゃが原因で起こるとても危険な事故です。

今回のように、猫の異常に早く気づいて治療をすれば、術後も良好な回復が見込めます。
しかし、発見が遅れると命に関わる可能性もあるため、次のポイントにご注意ください。

  • 紐状の物は猫の手の届かない場所に保管する
  • 猫が物で遊んでいる間は目を離さない
  • 嘔吐や食欲不振が続くときは、すぐに動物病院へ連れて行く

異物誤食は飼い主様の気配りで防ぐことができる可能性が高いです。
ぜひ今一度、ご自宅の飼育環境を見直してみてください。
もし「猫が遊んでいた紐が見当たらない」など心当たりがある場合は、できるだけ早くご来院ください。

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