2025/9/19
整形外科
トイプードルの橈尺骨骨折の一例犬の橈尺骨骨折を髄内ピンで整復した症例を解説
「犬がソファから飛び降りた後、足を上げて歩かなくなりました。」
動物病院では、こうしたご相談をよくいただきます。
犬が突然足をかばう姿は飼い主様にとって非常に不安なものですよね。
犬が突然足をかばう病気に橈尺骨骨折という病気があります。
犬の橈尺骨骨折は正しく治療がされないと慢性的な痛みが残ってしまう病気です。
今回は実際に橈尺骨骨折を髄内ピンで整復した症例をもとに、犬の橈尺骨骨折について解説いたします。
小型犬を飼っている方にとっても身近で起こりうるケースですので、ぜひ最後までご覧ください。
犬の橈尺骨骨折
犬の肘から手首の間は橈骨と尺骨という2本の骨で構成されています。
犬の橈尺骨骨折は橈骨と尺骨が折れてしまう病気です。
橈尺骨骨折は小型犬に多く、次の犬種などで特に起こりやすいです。
- トイプードル
- チワワ
- ポメラニアン
- イタリアングレイハウンド
これらの犬種は特に前足の骨が細いため、小さな衝撃でも骨折を起こしてしまいます。
犬の橈尺骨骨折の原因
犬が橈尺骨骨折を起こしてしまう原因には次のものが多いです。
- 高いところからの落下
- ソファや階段から飛び降りたときの衝撃
- 他の動物との激しい遊び
- 交通事故
犬の飛び降りた高さが数十センチでも、犬が着地に失敗すると骨折してしまうことがあります。
犬が着地後に痛がっていたら様子見はせず、一度動物病院に相談しましょう。
犬の橈尺骨骨折のサイン
犬が橈尺骨骨折をすると、次のような症状が見られることがあります。
- 急に片足を上げて地面に着けなくなる
- 足を引きずる・びっこを引く
- 足が腫れる
- 足を触ると痛がる・鳴く
犬は骨折をしていても痛がらないこともあります。
痛がらなくても歩行に違和感を感じたら動物病院への受診がおすすめです。
犬の橈尺骨骨折の予防
犬の橈尺骨骨折の予防には次のようなものが挙げられます。
- ソファやベッドなど高い場所から飛び降りないようにする
- フローリングに滑り止めマットを敷く
- 猫や大型犬などとの遊びをヒートアップしないように見守る
- 子犬期は特に注意して生活環境を整える
小型犬の骨折は「よくあること」ですが、飼い主様のちょっとした配慮で防げるケースも多いです。
犬の橈尺骨骨折の治療
犬の橈尺骨骨折の治療方法はいくつかあり、骨折した場所や年齢などで判断されることが多いです。
治療には以下のような方法があります。
- プレート固定
- 髄内ピン固定
- 創外固定
- ギプス包帯による固定
犬の橈尺骨骨折では骨折部位にプレートを埋め込む方法が一般的です。
プレートやピンを入れることで骨折部位を安定させ、骨が癒合するのを待ちます。
骨折部位が髄内ピンやプレートで固定されていても、犬が活発に走り回ると固定が破綻してしまうことがあります。
整復した犬は手術後1-2ヶ月程度の安静が必要です。
骨折部位の癒合が確認されたらプレートやピンを抜去されます。
骨折による骨のずれが少ない場合は、外科手術を行わずにギプス包帯で固定する治療方法もありますね。
髄内ピン固定による犬の橈尺骨骨折の整復
犬の骨は筒状になっており、筒の中を骨髄と呼びます。
髄内ピン固定とは、骨折した骨の骨髄に細長いピンを入れることで固定する方法です。
髄内ピンは次のような場合で選択されることがあります。
- 骨折部位へのプレート設置が難しい場合
- プレートによる骨の成長に影響が懸念される場合
成長期の犬の骨折では、骨の成長に影響を及ぼしにくい髄内ピン固定を選択することがあります。
実際の症例
今回紹介する症例は5か月齢のオスのトイプードルです。
同居の猫と追っかけっこをした後から右前足を着けなくなったとのことで来院されました。
来院時は右前肢を一切地面に着けない状態で、患部を軽く触れるだけでも強く痛がる様子が認められました。
当院でレントゲン検査を行ったところ、橈尺骨骨折が確認されました。
こちらがレントゲン写真です。
飼い主様と相談し、外科手術で骨折の整復を行うことにしました。
この症例では骨折部位へのプレート設置が困難と判断し髄内ピン固定で整復されました。
こちらが手術後のレントゲン写真です。
手術から5週間後のレントゲン写真で、骨の癒合が良好に進んでいることが確認されました。
このタイミングで固定していたピンを抜く手術を行いました。
こちらが手術後のレントゲン写真です。
症例の骨からピンがなくなり、骨折部位も綺麗に癒合しているのが確認されました。
ピンの抜去から1週間後の診察では、症例の患肢の使用は非常に良好でした。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は5か月齢のトイプードルに発生した橈尺骨骨折の症例をご紹介しました。
犬の骨折は突然起こり、飼い主様に大きな不安を与えます。
早期に適切な治療を行えば、今回のように元気に回復することが可能です。
特に小型犬は骨折のリスクが高いため、日常生活の中での予防と注意が大切です。
もし愛犬が急に足を上げて歩かなくなった場合は、迷わず動物病院にご相談ください。