2025/8/31
消化器科
トイプードルの胃内異物の一例とうもろこしの誤飲により開腹手術を実施した症例
「とうもろこしの芯を丸飲みしてしまった」
「焼き鳥を串ごと食べてしまった」
「おもちゃを噛んでいたら破片を飲み込んでいた」
こうした経験をした飼い主さんは少なくないでしょう。
本来、胃の中にあるべきではない物が胃内に留まる状態を胃内異物といいます。
胃内異物として代表的なものは、とうもろこしの芯、串、骨、おもちゃの破片などです。
胃内異物は、嘔吐や食欲不振などの症状を引き起こすことがあります。
場合によっては命に関わることもある危険な状態です。
本記事では実際に当院で治療した症例を交えながら、犬の胃内異物について解説します。
また、飼い主さんができる予防策についてもわかりやすくご紹介します。
ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。
犬の胃内異物の原因
胃内異物とは、本来胃の中にあるはずのない物(異物)が胃の中に留まっている状態を指します。
異物は、犬が日常生活の中で誤って口にしてしまった物がほとんどです。
犬がよく飲み込んでしまう異物には、以下のようなものがあります。
- おもちゃの破片
- 靴下やタオルなどの布類
- とうもろこしやりんごの芯
- 骨
- 串
- 石
特におもちゃなどは、遊んでいるうちにうっかり飲み込んでしまうことがよくあります。
犬の口に入りそうなサイズや形状の物は、普段から手の届かないところに保管しておくことが大切ですね。
飲み込んだ異物は、自然に体の外へ出ることもありますが、お腹の中に留まると嘔吐や食欲不振などの症状を引き起こします。
命に関わるような重大な症状につながることもあるため、異物を飲み込んでしまった際は早めに動物病院を受診しましょう。
犬の胃内異物の症状
胃内異物の症状は、
- 異物の形
- 異物の大きさ
- 飲み込んでからの時間
によりさまざまですが、主に以下のような症状が見られます。
- 嘔吐
- 食欲不振
- 元気がない
- お腹の痛み
- 吐血(血を吐く)
- 黒色便(タールのような黒い便)
中でもよく見られるのが嘔吐です。
何度も吐いたり、毎日のように吐いたりするといった様子が見られます。
胃の中の異物が邪魔をして内容物がうまく腸へ流れず、胃が刺激されることで嘔吐が引き起こされます。
一方で、明らかな症状が出ないケースも少なくありません。
- なんとなく元気がない
- 食欲が落ちてきた
- 最近体重が減ってきた
といった、はっきりしない症状が続く場合も注意が必要です。
少しでも気になることがあれば、動物病院に相談しましょう。
犬の胃内異物の診断に役立つこと
犬の胃内異物の診断では、飲み込んだ物についての情報が重要です。
もし、何かを飲み込んだとわかっている場合は、動物病院で以下のようなことを伝えると診断がスムーズになります。
- 何を飲み込んだのか
- いつごろ飲み込んだのか
- どれくらいの量を飲み込んだのか
- 飲み込んだ物がどんな状態だったのか(包装の有無など)
また、実際に飲み込んだ物や入っていた袋・容器などがあれば、それらを一緒に持っていくと診断の参考になるでしょう。
犬の胃内異物の治療
犬の胃内異物の治療方法は、異物の大きさや場所などによって異なります。
異物が小さく内視鏡で摘出できる形状であれば、内視鏡を使って口から直接取り出すことができます。
内視鏡による摘出のメリットは、手術と比べて体への負担が少ない点です。
開腹手術による摘出が必要となるケースは、以下のような場合です。
- 大型の異物
- 表面がツルツルして滑りやすい異物
- 異物が腸にまで移動してしまっている場合
- 胃や腸で閉塞(詰まり)を起こしている場合
このような場合は開腹による外科手術を行い、直接異物を取り除きます。
異物が自然に排出されるのを待つこともあります。
小さいものや尖っていないものなど、危険性が低いと判断された場合です。
ただし、自然に待つ場合でも、異物の動きや犬の状態を確認しながら慎重に経過をみていく必要があります。
犬の胃内異物の予防策
犬は好奇心旺盛で、興味をもった物を口に入れてしまうことがよくあります。
事故を防ぐためには、日常のちょっとした心がけがとても大切です。
危険な物を犬の届く場所に置かない
まずは、犬が届く範囲に誤飲の原因になるものを置かないことが大切です。
- 小さな物
- 鋭利な物
- 食べ物の包装袋
などは、犬が届くところには置かないようにしましょう。
おもちゃは飲み込みにくい大きさに
おもちゃは、犬の口よりも大きく、かつ壊れにくい素材のものを選びましょう。
また、遊んでいる間はできるだけそばで様子を見ることも大切です。
壊れたおもちゃの破片を飲み込んでしまうこともあるため、遊んだ後はおもちゃの状態を確認するとよいでしょう。
食べ物の与え方にも注意を
食べ物でも、与え方を誤ると胃内異物の原因になります。
食べ物を与える際は、以下の点に注意しましょう。
- 食べ物は適切な大きさに切ってから与える
- りんごやとうもろこしの芯は与えない
- 鶏の骨などは除いてから与える
食べているときや、飲み込んだときの犬の状態にも注意を払いましょう。
実際の症例:トイ・プードルのとうもろこしの誤飲
ここで、実際に当院で治療した胃内異物の症例をご紹介します。
4歳の去勢済みオスのトイ・プードルの症例です。
とうもろこしを丸飲みしてしまったという主訴で来院されました。
X線検査を行ったところ、胃の中にとうもろこしと思われる陰影が確認されました。
まずは内視鏡で摘出を試みました。
しかし、とうもろこしが大きく、胃の入り口を通過できなかったため開腹手術に切り替えました。
胃を切開し、無事にとうもろこしを摘出できました。
画像は、胃のとうもろこしを確認できたところです。
これが摘出したとうもろこしです。
手術後は順調に回復しました。
このように結構な大きさの物でも、犬は丸飲みしてしまうことがあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
犬の胃内異物は、日常の中で起こりうる身近なトラブルのひとつです。
たとえ小さな異物でも、種類や位置によっては胃や腸を傷つけたり、閉塞を引き起こしたりして命に関わることもあります。
誤飲を防ぐためには、犬が安全に過ごせる環境づくりがとても大切です。
日々のちょっとした工夫や気配りが、大きなトラブルを未然に防ぐことにつながります。
「何か飲み込んでしまったかもしれない」と思ったら、症状が出ていなくても早めに当院までご相談ください。