症例紹介

Case

2025/7/10

循環器/呼吸器科

肺水腫のパピヨンの一例呼吸が荒い・咳が続くときは要注意

「最近、呼吸が速い気がする」
「夜中にむせるような咳を繰り返す」
「シニア犬だし、年齢のせいかな」

このような犬の変化に気づいていながらも、様子を見ていることはありませんか?

実は、咳や呼吸困難は「肺水腫」 が原因かもしれません。
肺水腫は早期治療が遅れると命に関わる危険な状態です。
今回は11歳のパピヨンの症例をもとに、犬の肺水腫について解説していきます。
ぜひ、最後までお読みいただき、犬の咳や呼吸の変化に気づくきっかけにしてください。

犬の肺水腫とは?

肺水腫は肺の血管から水分が漏れ出し、肺が水浸しになってしまう病態です。
もっとも多い原因は僧帽弁閉鎖不全症などの心臓病によるものです。
心臓からうまく血液を送り出せなくなると血管内圧が上昇し、血漿成分が肺に滲み出てしまいます。
特に、中高齢の犬や、小型犬では、リスクが高くなります。
肺水腫になると呼吸がしづらくなり体内の酸素が不足するため、放置すると急速に悪化する怖い病気です。

肺水腫の主な症状

肺水腫になると以下のような症状が見られることがあります。

  • 乾いた咳、あるいは泡状の痰を伴う咳
  • 浅く速い呼吸、息が荒い
  • 横になって眠れず座ったまま呼吸する
  • 舌や粘膜が紫色(チアノーゼ)になる
  • 元気消失、食欲低下

肺水腫は一気に進行して命に関わる可能性があります。
症状に思い当たるところが見られたら、できるだけ早く受診することが大切です。

肺水腫の診断と治療

診断ではレントゲン検査で肺の不透過性亢進(白くもやがかる所見)や、心拡大の有無を確認します。
必要に応じて超音波検査や心電図、血液検査も組み合わせ、原因となっている心疾患の評価を行います。

治療には

  • 利尿薬(フロセミドなど)で肺の水分を抜く
  • 血管拡張薬や強心薬(ピモベンダン、ハンプ)で心臓の負担を減らす
  • 酸素室(ICU)管理で呼吸をサポート

などが行われます。
とにかく肺に水がたまらないようにして、命の危険がある急性期を乗り切る必要があります。
肺水腫は急性期を乗り切った後も再発予防の内服管理と定期心臓検査が不可欠です。

実際の症例紹介

実際に当院にご来院された11歳のパピヨン(去勢雄)の症例をご紹介します。
こちらのパピヨンは昨年末までは心雑音が聞こえる状態だったものの、心拡大は認められてませんでした。
しかし、受診前日から咳が急激に悪化し、息が荒いとのことで来院。
レントゲンで肺野の不透過性亢進と心拡大を確認し、心臓病が原因である心原性肺水腫と診断しました。

こちらが実際のレントゲン写真です。肺が白くなっていて、心臓が大きくなっているのがわかります。

治療前の肺水腫のレントゲン画像

その後、ICU酸素管理下で強心剤やピモベンダン、利尿薬を投与して治療を開始。
呼吸状態は安定し、4日後に退院となりました。

こちらが治療後のレントゲンです。

治療後の肺水腫のレントゲン画像

肺の白さが落ち着いているのがわかりますね。

現在は当院に月1回来院する循環器を得意とする獣医師の診察を受けながら、内服で心臓と呼吸のコントロールを継続しています。

定期検診と急変時の受診のすすめ

肺水腫は一度落ち着いても、心臓病の進行や気温・湿度の変化などをきっかけに再発することがあります。

再発を防ぐためには、定期的な心臓検査(胸部レントゲンや心エコー、血圧測定など)で病態をチェックし、内服量や生活管理をその都度見直すことが欠かせません。

また、普段から

  • 呼吸数がいつもより増えていないか
  • 夜間や横になったときに咳き込んでいないか
  • 舌の色が紫がかっていないか

を観察し、少しでも「息が荒い」「咳が止まらない」などの急変サインがあれば、迷わずご来院ください。早期処置が命を守るポイントです。

まとめ

肺水腫は「急に咳が増えた」「呼吸が速い」といったサインから短時間で重篤化することがあります。
特に中高齢で心雑音を指摘されたことのある犬では要注意です。
咳や呼吸の異変に気づいたらすぐに受診をすることが大切です。

「昨日まで元気だったのに急に苦しそう」というときは、迷わずご相談ください。
当院は循環器診療にも力を入れ、ICU設備と循環器を得意とする獣医師の連携で愛犬の呼吸のトラブルにも迅速に対応します。

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