症例紹介

Case

2025/7/7

歯科

重度の歯周病トイプードルの一例日々の歯磨きで防げる口の病気

「最近、愛犬の口が臭うようになった」
「固いものを食べなくなってきた」
「歯がぐらぐらしている気がする」

こんな変化に気づいていながらも、「年齢のせいかな」と様子を見ていませんか?
実はそれ、歯周病のサインかもしれません。

歯周病は、犬の口腔内で最も多いトラブルの一つです。
進行すると歯が抜けてしまうだけでなく、顎の骨が溶けたり、鼻と口がつながる「鼻腔瘻(びくうろう)」を起こしたりすることもある、油断できない病気です。

今回は複数の歯を失ってしまった症例をふまえて、歯周病についてご紹介します。
ぜひ最後までお読みいただき、歯周病予防について考えるきっかけにしてください。

犬の歯周病とは?

歯周病とは、歯と歯ぐきの隙間にたまった歯垢や歯石に細菌が繁殖し、歯周組織を壊していく病気です。
初期段階では、歯肉炎として歯ぐきの赤みや出血が見られますが、放置すると歯周炎へと進行し、歯がぐらついたり抜けたりします。
犬は人間よりも唾液の性質により歯石ができやすく、特に小型犬や高齢犬では発症リスクが高まります。
3歳以上の犬の8割が歯周病を抱えているとも言われている、よくみられる病気の一つです。

犬の歯周病の症状は?

犬が歯周病になるとまず、

  • 口臭が出る
  • 歯ぐきが赤くなる
  • 歯茎から出血がある

などの症状があらわれることがあります。
これらは全て、歯と歯ぐきの境目で細菌が増え、炎症が起きているサインです。
歯周病を放置していると炎症がひどくなり、歯や周囲の骨まで細菌が到達し骨を溶かしてしまいます。

  • 歯がグラグラして抜ける
  • 頬に穴が開く
  • 顎の骨が折れる
  • 痛みにより元気食欲がなくなる

などの重度な症状へと進行するため、注意が必要です。

特に歯周病が重度になると、上顎の歯の根元から鼻へ穴がぬける「鼻腔瘻」ができることがあります。
鼻腔瘻ができると

  • ご飯や水が鼻から逆流する
  • 透明または膿性の鼻水が続く
  • 食後や飲水後にくしゃみを連発する

といった症状が見られ、慢性的な違和感や鼻炎を引き起こします。
くしゃみや鼻水が多い場合には、鼻の病気ではなく歯周病が原因になっているかもしれません。
気になる症状がある場合には、早めの検査が必要です。

歯周病の治療は?

犬が歯周病になった場合には、歯石を除去するスケーリングを行うことが基本の治療です。
歯石は一度付着すると、日々の歯みがきでは除去できません。
専用のスケーラーという道具で、麻酔下での処置が必要になります。
すでに歯周病が進行して歯がぐらついている場合には、抜歯をすることで炎症や痛みの原因を取り除く必要があります。

実際の症例紹介

今回ご紹介するのは、11歳のトイプードル(去勢雄)です。
「歯が1本抜けた」とのことで当院を受診されました。

口の中を確認すると、全体的に歯石が重度に付着しており、歯ぐきも赤く腫れていました。
さらに、歯が何本もぐらついており、歯ぐきが縮み歯を支えている骨も多く溶けている状態です。
こちらが処置前の口腔内の様子です。

スケーリング前の口の中の様子

治療としては、全身麻酔下でのスケーリング(歯石除去)を実施し、保存可能な犬歯4本を残して、その他の歯はすべて抜歯しました。
こちらがスケーリング後の写真です。

スケーリング後の口の中

歯の数は大幅に減りましたが、歯の色は白くなっているのがわかります。

処置後は歯ぐきを縫合し、痛みや感染を抑えるための内服薬を処方しています。

術後は食欲も改善し、飼い主様からは「食べやすそうになった」「口臭がなくなった」とのお声をいただいています。

スケーリングには全身麻酔が必要?

スケーリングは、見た目以上に繊細な処置で、犬が動かずに口をしっかり開けられる環境でないと安全に実施できません。
無麻酔でスケーリングを行うと、歯や歯ぐきを傷つけたり、細菌が深部に入り込んだりするリスクが高まります。
また、細部まで処置ができずに歯石を残してしまうことで、歯周病が悪化する原因になることも。

そのため、当院ではスケーリングは必ず全身麻酔下での実施です。
もちろん、全身麻酔にもリスクはあります。
麻酔リスクを最小限に抑えるため、事前に血液検査などを行い、体調をしっかり把握したうえで実施しています。
麻酔での処置に不安がある場合には、しっかりご説明いたしますので、獣医師までお気軽にご相談ください。

歯周病を予防するには?

歯周病を予防するために最も重要なのは、毎日の歯みがきです。
できてしまった歯石はスケーリングでしか取り除けませんが、歯石ができないようにすることはできます。
歯垢は24〜48時間で歯石に変わってしまうため、こまめなケアが欠かせません。

  • 歯ブラシや指サック型の歯磨きグッズを活用
  • 難しい場合は歯磨きシートや口腔ジェルからスタート
  • 年に1〜2回は動物病院での口腔チェック

などのケアをしていきましょう。
お家での口腔ケアで歯周病の予防をしていくことが大切ですね。

まとめ

今回は当院で実際に治療した症例を踏まえて歯周病について解説しました。
今回の症例では、重度の歯周病により多くの歯を抜歯することとなりました。
適切な治療により、口腔内の状態も改善しましたが、歯周病は適切なケアで予防ができる病気です。

歯周病は見た目ではわかりにくく、気づいたときには重症になることもあります。
毎日のケアと定期的なチェックで、大切な家族の健康を守りましょう。

当院では歯周病の進行度合いに合わせて治療を行っております。
「最近、口のにおいが気になる」「歯がぐらついてきたかも」といった小さなサインを見逃さず、ぜひ一度ご相談ください。

診察案内はこちら
当院のLINE公式アカウントから簡単に予約が可能です

pagetop
loading