2025/6/29
歯科
トイプードルの歯周病の一例重度歯周病により歯が抜けてしまった症例の治療について
犬の歯についてのお悩みは、動物病院ではよくご相談いただくことの多い分野のひとつです。
愛犬のお口について
- 最近愛犬のお口の匂いが気になる
- 口の中はよく観察できない
- 歯周病かもしれない
などのお悩みを抱えている飼い主様は多いのではないでしょうか。
ご家族も不安な気持ちがありながらもどうなっているかわからず、とても不安ですよね。
今回は犬の歯周病について、当院で治療した症例をふまえて解説いたします。
犬の歯周病について詳しく知っておくことで、重症化する前に対処できるよう備えておきましょう。
犬は歯周病になりやすい?
歯周病は人間に比べて、犬でとても多い病気です。
犬が歯周病になりやすい理由は、人間と犬の唾液の性質の違いにあります。
その性質の違いとは、犬の唾液は人間の唾液にくらべアルカリ性に近いということです。
ここからは、なぜアルカリ性の唾液は歯周病を起こしやすいかについてご説明します。
歯周病菌はアルカリ性の環境を好む
歯周病菌には、アルカリ性の環境を好むという特徴があります。
犬の唾液はアルカリ性に近く、歯周病菌が繁殖しやすい環境です。
歯周病菌が繁殖することによって歯周組織に炎症が起き、歯周病が引き起こされます。
アルカリ性の環境下では歯石が溜まりやすい
アルカリ性の環境下では、歯垢が歯石に変わりやすいです。
アルカリ性の唾液にはミネラル成分が多く含まれるという特徴があります。
唾液中のミネラル成分は、口腔内の歯周病菌の塊である歯垢を歯石にするのを促進してしまいます。
そのためアルカリ性の犬の口内では、歯石が溜まりやすい環境になっています。
歯石が溜まってしまうと歯磨きをしても、歯石に覆われた歯自体を磨くことは難しくなるため、口内の環境はどんどん悪化していきます。
犬の歯周病の症状
犬の歯周病による症状は、
- 口臭が強くなる
- 歯茎から出血する
- 歯石が溜まる
などの症状から現れます。
口臭や出血は、口内で増えた歯周病菌やそれによる炎症が原因です。
歯周病が進行すると、歯やその周囲の骨を溶かしていきます。
骨や歯が溶けると、
- 歯がグラグラして抜ける
- 顎の骨が折れる
- 歯茎や頬に穴が開く
などの症状が出るようになります。
このような段階では口の痛みも強く、元気食欲がなくなったり、かたい物を食べるのを避けたりするようになります。
歯周病になってしまったら…
動物病院で歯周病の診断がされた場合、どのような治療が必要になるのでしょうか。
歯周病の治療は、「歯石の除去」が基本です。
歯石は、残念ながら歯磨きで除去することはできません。
先の尖った専用の器具を使い、歯石を削りとることで除去します。
また、歯の表面に鎧のように付着している歯石だけでなく、歯周ポケットの中に付着している歯石を除去することが非常に重要です。
歯周ポケットの中の歯石までしっかり除去するのには痛みを伴うため、全身麻酔をかけて、歯周病菌を可能な限り除去する必要があります。
歯周病菌により溶けてしまってグラグラしているような歯は、歯石を除去しても再生することはありません。
そのため、そのような歯は抜歯を行います。
犬は基本的に食事は丸呑みする生き物なので、歯を抜いてしまっても食事のときに困ることはありません。
実際の症例
当院で歯周病の診断、治療を行った症例をご紹介します。
症例は、11歳2ヶ月のトイプードル、去勢手術の済んだ男の子です。
歯が抜けたとの主訴で当院を受診されました。
口の中を観察すると、写真のように歯の周りに歯石がたくさんこびりついていました。
大量の歯石により、歯茎も退縮してしまっているのがわかりますね。
この状態では歯の根本を支えている骨も、ある程度溶けてしまっていることが予測されます。
その状態でも、歯石が支えになって歯がかろうじて残っているような状態だったということですね。
治療として、全身麻酔を行い、歯石除去と残存不可な歯の抜歯を行いました。
術後の写真を見ていただくと、歯がだいぶ減ってしまっていますが、残っている歯は綺麗な白色に戻っていますね。
この処置を行うことで、口腔内の歯周病菌を減らし、健常な組織を守ることが可能になりました。
歯周病は予防できる?
食事のときに困ることはないとはいえ、愛犬が歯周病になってしまうのは避けたいですよね。
歯周病は、ご家族のケアにより予防することができます。
犬の唾液の性質上、歯周病になりやすい環境自体を変えることはできません。
しかしこまめに歯磨きを行うことで、歯垢をなるべく歯石に変えないということが可能になります。
食べカスが残って溜まった歯垢が、歯石になって定着してしまう前に、歯磨きを行い汚れを除去しましょう。
しっかり口腔ケアを行うことができれば、歯周病になってしまった犬も再発を防ぐことは可能です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、当院で治療した症例をふまえて歯周病について解説しました。
今回ご紹介した症例では、残念ながら抜歯の処置をしなければならない歯が多数になるほど歯周病が進行していました。
歯周病はなるべく早く発見し、適切なケアを行うことで犬の歯や顎を守ることが重要です。
当院では歯科の治療も、症例ごとにしっかりご家族の生活スタイルや歯周病の進行度合いに合った治療やケアをご提案しています。
愛犬の口についてご不安なことがある方はぜひ、当院までご相談ください。