2025/6/13
消化器科
犬の異物誤食の二例実際の症例をもとに気をつけるポイントを解説
犬の異物誤食は、日常生活で起こりやすいトラブルのひとつです。
飼い主の靴下やマスク、おもちゃの破片など、意外なものを飲み込んでしまうことがあります。
誤食した異物がスムーズに排出されれば問題ありませんが、消化管に詰まると命に関わることも。
本記事では、犬の異物誤食について具体的な症例を交えて解説します。
異物誤食の症状
犬が異物誤食をした場合の症状は、異物の種類や大きさ、位置によって異なります。
異物が胃や腸にあるが詰まっていない場合は
- 食欲不振
- 嘔吐(食後すぐに吐くことが多い)
- 便の異常(下痢・便秘)
- 元気がない
などの症状が見られます。胃腸炎を疑って病院に行くと実は異物があったということもあります。
異物が消化管に詰まっている場合には
- 頻繁な嘔吐(何も食べていなくても吐く)
- お腹を触ると嫌がる・背中を丸める姿勢をとる
- 食欲低下
- ぐったりしている
- 排便がない、または黒っぽい血便
などの症状が見られることがあります。これらの症状が見られた場合には、緊急対応が必要です。
犬の異物誤食の治療法
犬の異物誤食の治療方法は主に次の3つです。
- 催吐処置
- 内視鏡による除去
- 開腹手術
催吐処置
異物がまだ胃の中にあり、比較的小さい場合は、注射薬などを用いて嘔吐を促します。
ただし、鋭利なもの(針や骨の破片など)や、大きすぎるものは吐かせると危険なため、この方法は適用できません。
内視鏡による除去
催吐処置で排出できなかった場合や、胃の中に異物が留まっている場合は、内視鏡を使用して取り除きます。
全身麻酔下で鉗子を使い、異物を慎重に取り出す方法です。
開腹手術
内視鏡で除去できない場合や、異物が腸に移動して閉塞を起こしている場合は、外科手術が必要になります。
腸閉塞が進行すると、腸の壊死や腹膜炎を引き起こす可能性があるため、早急な対応が必要です。
実際の症例:ミニチュアシュナウザーの靴下誤食
ここで実際に異物誤食で来院した症例をご紹介します。
11ヶ月の去勢済みオスのミニチュアシュナウザーの症例です。
飼い主が犬が靴下を飲み込むのを目撃し、すぐに当院を受診。
レントゲンでは靴下ははっきり写らなかったものの、胃の中に異物があることが疑われました。
まずは催吐処置を実施しましたが、靴下は吐き出されませんでした。
そのため、内視鏡を使用し、鉗子を使い胃内の靴下を慎重に取り除く処置を実施。
これが取り除いた靴下の写真です。
処置後は問題なく回復しています。
この症例から分かるように、犬は意外と大きな異物を飲み込むことができるものの、自力で吐き出せない場合も多くあります。
症例2:内視鏡で取れなかった異物
次の症例はゴールデンレトリバーです。
この犬は豚の形をしたおもちゃをかじって飲み込んでしまいました。
おもちゃが胃の中で膨らみ、噴門(胃の入口)を通過できなくなったため、内視鏡では取り出せず、開腹手術が必要になりました。
実はこの犬、過去にも同じおもちゃを2回飲み込み、2回とも胃切開を受けています。
誤食を繰り返す犬もいるため、一度誤食した犬は特に注意が必要です。
こちらが実際の豚のおもちゃです。
異物誤食を防ぐためにできること
犬の異物誤食を防ぐためにはどうすればいいのでしょうか?
予防のためにできることをご紹介していきます。
犬の届く範囲に誤食しやすいものを置かない
犬は飼い主が予想していないものを飲み込んでしまうことがあります。
特に靴下やマスク、おもちゃの破片などは犬が誤食しやすいため、日頃から整理整頓を心がけましょう。
また飼い主のにおいがついたものは、誤食しやすい傾向にあります。
噛みちぎれるおもちゃは与えない
ゴム製のおもちゃやぬいぐるみなど、犬がかじって壊せるものは特に危険です。
耐久性のあるおもちゃを選び、定期的に状態を確認してください。
少しでも壊れていたら新しいものと交換しましょう。
またゴム製のおもちゃは飲み込むことができても、胃の中で膨らみ、内視鏡では取り出せないことがあるため、遊ぶ際にはよく観察しておきましょう。
異物誤食の前科がある犬は要注意
一度誤食した犬は、繰り返す傾向があります。
特に、食べることが好きな犬は、日常的に注意が必要です。
異物誤食の兆候を見逃さない
「いつもと様子が違う」「食後に嘔吐する」といった変化が見られたら、誤食を疑いましょう。
早めの受診によって、重症化を防げます。
まとめ
犬の異物誤食は、日常のちょっとした不注意で発生します。
特に、靴下やマスクなど飼い主の匂いがついたものは誤食のリスクが高いです。
異物の種類によっては、内視鏡で除去できず開腹手術が必要になることも。
普段から誤食しやすいものを管理し、事故を未然に防ぐことが大切ですね。
万が一誤食してしまった場合には、ぜひ当院へご相談ください。