2025/5/10
腫瘍科
MIX猫の頸部に発生したリンパ腫の一例体のしこりに要注意
「最近、猫の体にしこりのようなものを見つけた」
「内服で治療をしているけどなかなか小さくならない」
「年齢的に悪いものじゃないかと心配」
猫の体にできたしこりについて、このような心配をお持ちの方はいらっしゃいませんか?
実は、猫の体にできるしこりには、リンパ腫と呼ばれる腫瘍性疾患が関係していることがあります。
猫のリンパ腫は発生部位によってさまざまな症状を引き起こします。
今回は、リンパ腫の中でも猫の首に発生したリンパ腫の症例をもとに、検査から治療までの流れをご紹介します。
ぜひ最後までお読みいただき、猫がリンパ腫になった時の参考にしてください。
猫のリンパ腫とは?
猫のリンパ腫は、白血球の一種であるリンパ球ががん化して異常に増殖する悪性の腫瘍で、血液がんの一種に分類されます。
リンパ腫は猫の悪性腫瘍の中でも比較的割合が多く、発生部位に応じて以下のようなタイプがあります。
- 消化器型
- 縦隔型
- 多中心型
- 節外型
この中でも多中心型リンパ腫は全身のリンパ節が腫瘍化するリンパ腫です。
首や下顎、脇の下などに多くみられます。
猫のリンパ腫の中では発生は多いタイプではありませんが、早期にしこりとして気づかれることが多く、診断・治療のチャンスが得られやすいタイプでもあります。
多中心型リンパ腫の症状と検査方法
リンパ腫で見られる症状はタイプによって異なります。今回の症例のような多中心型のリンパ腫では
- リンパ節のしこり(徐々に大きくなる)
- 食欲の低下
- 元気の消失
- 発熱や倦怠感
などの症状が出ることがあります。
リンパ腫の診断は、いくつかの検査を組み合わせて行います。
- 血液検査
- 超音波検査
- 細胞診
- クローナリティ検査(リンパ球の性質を調べる)
- 病理組織検査(摘出した組織の詳細検査)
などが主な検査です。
特にクローナリティ検査は、リンパ腫の確定診断に重要な役割を果たします。
治療と予後
猫のリンパ腫に対する治療の基本は、抗がん剤による化学療法です。
多くの場合、CHOPと呼ばれるプロトコールを用いて複数の抗がん剤を組み合わせます。
使用される主な薬剤は以下の通りです。
- ビンクリスチン
- ドキソルビシン
- シクロホスファミド
- プレドニゾロン
リンパ腫の治療では、副作用の管理をしながら治療を継続することで、症状の改善や再発の予防が期待できます。
治療への反応や生存期間は腫瘍の進行度によっても変わりますが、早期に治療を開始できれば予後の改善につながる可能性があります。
実際の症例紹介
それでは実際に当院で治療を行った症例をご紹介します。
今回ご紹介するのは、13歳の去勢済みMIX猫の症例です。
「右の首にしこりがある」とのことで当院を受診。しこりの大きさは約5cmで、他院でステロイド治療を受けていましたが改善が見られず、精密検査を希望されました。
血液検査では白血球数が高値を示し、超音波検査では肝臓と脾臓に結節が確認されました。
しこりのある頸部リンパ節に対して穿刺吸引検査(FNA)を実施した結果、リンパ節炎およびリンパ腫の可能性があると推測。
その後、クローナリティ検査によりB細胞性のリンパ腫と診断されました。
確定診断に基づき、飼い主様とのご相談の上で頸部リンパ節の摘出手術を実施。
こちらは手術前の首のしこりがわかる写真です。
こちらが摘出したリンパ節の写真です。
摘出した組織の病理検査でも、リンパ節に原発したリンパ腫との診断が得られました。
現在はCHOPプロトコールに基づく抗がん剤治療を継続しており、副作用のコントロールも良好です。
現在は16回目の化学療法を終えたところで、再発もなく安定した経過をたどっています。
まとめ
今回の症例では、頸部リンパ節に原発したリンパ腫と診断されましたが、早期に適切な検査と治療を行ったことで、良好な経過が得られました。
猫の頸部に見られるしこりは、良性のものだけでなく腫瘍性疾患の可能性もあるため、慎重な判断が必要です。
当院では腫瘍診療に力を入れており、症例ごとに適した検査や治療をご提案しています。
また、セカンドオピニオンも受け付けておりますので、気になる症状があればお気軽にご相談ください。