2025/5/3
消化器科
チワワの胆管閉塞の一例胆管閉塞で胆嚢切除した症例
胆管閉塞という病気をご存知ですか?
胆管閉塞の犬は嘔吐や食欲不振などの症状を示します。
犬の嘔吐や食欲不振は比較的よくみられる症状で、特に問題なく自然と治ることも多いです。
しかし中には重篤な病気が隠れていることもあります。
今回は嘔吐や食欲不振が症状として挙げられる、胆管閉塞という病気について解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、犬の胆管閉塞への理解を深めていただければ幸いです。
犬の胆管閉塞とは
犬の胆管閉塞とはなんらかの原因で胆管が詰まり、胆汁の流れが滞ることでたくさんの合併症を起こす病気です。
胆管閉塞についてより理解を深めていただくために
- 胆汁と胆管について
- 胆管閉塞の原因
- 胆管閉塞が悪化するとどうなるか
について解説します。
胆汁と胆管について
胆汁は肝臓で作られていて、脂肪分を分解する消化酵素を含んでいます。
胆汁は肝臓から出ている肝管を通って胆嚢に貯蔵されます。
胆嚢に一次的に貯蔵された胆汁は胆管と肝管が合流した総胆管を通って、十二指腸へ排出されることで消化酵素が働きます。
したがって胆管閉塞がおこると肝管の閉塞も同時におこることになるため、肝臓の機能も障害されます
胆管閉塞の原因
犬の胆管閉塞の原因は主に胆嚢内の胆石や粘液が胆管に詰まることです。
胆管閉塞の原因となる胆嚢内の貯留物は
- 胆泥
- 胆石
- 粘液嚢腫
などです。
全て胆汁が変化したもので、その状態によって名前と病態が異なります。
胆泥が貯留している場合を胆泥症、胆石がある場合を胆石症といいます。
また、粘液嚢腫がある胆嚢の状態を胆嚢粘液嚢腫といいます。
粘液嚢腫は胆汁の流動性がほとんどなくなったもので、寒天のような状態になったものです。
胆嚢粘液嚢腫は胆泥症よりも合併症や死亡率が高くなります。
胆嚢内の問題以外にも、膵炎などの胆管の近くにある臓器の炎症や腫瘍が原因で胆管閉塞が発症することもあります。
この場合は胆管が外側から圧迫されて胆管の内腔が狭まることが原因です。
胆管閉塞が悪化するとどうなるのか
胆管閉塞が悪化すると胆嚢が破裂し胆汁がお腹の中に漏れ、腹膜炎を引き起こすかもしれません。
腹膜炎は直ちに命に関わる状態です。
胆管閉塞は悪化する前に動物病院で治療を受けることが大切です。
犬の胆管閉塞の症状
犬が胆管閉塞になるとどのような症状がみられるのでしょうか。
犬の胆管閉塞の症状は
- 嘔吐
- 食欲不振
- 黄疸
- 発熱
などです。
胆管の閉塞の程度や、閉塞の持続時間などによって症状も異なります。
犬が嘔吐していて、白目や耳の内側が黄色くなる「黄疸」が見られたら胆管閉塞を起こしている可能性が高いです。
このような場合には速やかに動物病院に連れて行きましょう。
犬の胆管閉塞の診断
犬の胆管閉塞の診断では
- 血液検査
- 超音波検査
- X線検査
などを用います。
血液検査
胆管閉塞の犬の血液検査では
- ALP
- ALT
- AST
- GGT
- ビリルビン
などの肝胆道系に関わる数値の上昇が認められることが多いです。
ビリルビンとは胆汁の成分です。
ビリルビンの値が高いことはどこかで胆汁の流れが滞っていることを意味するため、胆管閉塞の診断には有用です。
これに加えて炎症を伴う場合にはCRPという炎症のマーカーの値が上昇します。
超音波検査検査
超音波検査では
- 胆嚢
- 胆管
- 膵臓
などを描出して
- 胆管閉塞が起こっているか
- 膵炎が併発しているか
- 胆嚢内の貯留物がどんな状態か
などを調べることができます。
胆管閉塞では膵炎が併発していることがあり、その場合には膵炎の治療も行わなければなりません。
また胆嚢内の貯留物などの状態から、何が原因で胆管閉塞が起こっているかを推定することができます。
X線検査
胆嚢内の貯留物が胆石である場合はX線検査で検出が可能です。
犬の胆管閉塞の治療
胆管閉塞の原因が胆嚢疾患である場合は手術で胆嚢を摘出します。
必要があれば胆管ステントを設置することもありますね。
膵臓疾患やその他の疾患が胆管閉塞の原因であるときはその治療を行わなければなりません。
実際の症例
ここからは当院で胆管閉塞の診断を受け、胆嚢摘出術を行った症例をご紹介します。
症例はチワワで11歳、未避妊の女の子です。
食欲が低下していて嘔吐があるというのが来院の理由です。
血液検査をすると肝数値や炎症のマーカーなどの上昇がみられました。
X線検査をすると胆石がたくさん確認され、超音波検査では胆嚢内に貯留物があることがわかりました。
下の写真がX線検査で確認された胆石と超音波検査検査で確認された胆嚢内貯留物です。
翌日再び血液検査を行うと肝数値の更なる上昇があったため飼い主様と相談の上、手術を行うことにしました。
手術では
- 胆嚢切除
- 総胆管洗浄
- 胆管ステント設置
- 避妊手術
を合わせて行いました。
胆嚢摘出前と後の様子は下の写真の通りです。
これは摘出した胆石と胆嚢です。
摘出した胆嚢を病理検査に出すと、胆嚢粘液嚢腫という診断が下されました。
同時に病理検査に出した肝臓の組織からは、慢性肝炎と慢性胆管周囲炎であることがわかりました。
引き続き肝炎などの治療を続けながら注意深く経過を観察していく必要があります。
まとめ
いかがでしたか?
胆管閉塞は治療が遅れると命に関わる怖い病気です。
「犬の食欲がなく、嘔吐が続いている。」
「犬の元気がなく、耳や目が黄色くみえる。」
こんな時は迷わず動物病院を受診しましょう。
当院では胆嚢に関する手術も対応可能です。
犬の健康状態に不安があるときはお気軽に当院にご相談ください。